約 2,287,933 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3272.html
高校に入学して2回目の夏。俺達はまた例の機関所有の孤島に合宿に来ていた。その2日目の話だ。 孤島の別荘から伸びる三叉路、俺はそこで途方に暮れていた。向こうから古泉が走って来る。 「駄目です……島の東側では見付ける事が出来ませんでした。」 その顔には普段の余裕の微笑みは無く、焦燥に満ちている。さっき国木田が北側を探したが居なかったらしいし…俺が調べた南側も人影なんてまるでなかった。 「後は新川さんが捜索している西側だけですか……これはいったん別荘に戻って情報を整理した方が良いですね。」 「それしかないな……分かった。」 やれやれ、なんだよこの状況は…また機関絡みか? 午前7時過ぎに目を醒ました朝比奈さんによると、既にハルヒは居なかったらしい。その時は朝比奈さんは、天気も良いし朝の散歩にでも行ってるのだろうと気にしなかったらしい。 しかし朝食時になってもハルヒは戻らなかった。おかしい……不穏な空気が流れ始めたダイニングに、昨日から体調が優れず寝ている森さんを起こしに行った国木田が……血相を変えて帰って来た。 森さんが居ない。 国木田はそう言うと新川さんや多丸兄弟に心当たりがないか聞いていたが、誰も森さんの所在が分からないと言う。 かくして俺達は手分けしてハルヒと森さんを捜索する事になったんだが…この小さな孤島を3時間も捜したが手掛かり1つ掴めなかった。 「新川さん、どうでしたか?」 別荘の入り口では新川さんが俺達を待ってくれていた。 「残念ながら西側にも人影はありませんでした。」 「先ほど彼が南側を捜した時に専用ハーバーにクルーザーが在ったようですから。島には居るはずなんですが…」 「そうですな…森もあのお嬢さんもクルーザーを操舵出来ないはずですからな。」 「しかし、これだけ捜しても居ないとなると……長門さんに協力して貰うしかないですね。」 そうだな……別荘に入った俺達はホールで待っていた長門達と合流しダイニングで作戦会議をする事にした。国木田はやはり森さんが心配らしくまだ別荘の外を探しているらしい。 「長門さん単刀直入にお伺いします。涼宮さんの現在地が分かったりしませんか?」 長門はいつもの様にミクロン単位で首を傾げ、暫くして分からないと答えた。どうやら洒落にならん事態かもしれんな。 しかし…ハルヒだけ居なくなったなら散歩がてら外に出て、森さんもいないだけに森にでも入って未だに迷っている……(すまん、なんでもない)なんて言うギャグ漫画的なオチもありだが……森さんまで居ないっていうのはどういう事だ? また機関お得意の推理ゲームってやつか?確か以前は裕氏が圭一氏を殺して……みたいな流れだったしな。どうせまたそんな感じなんだろ 「それなら、森さんと国木田君にしますよ。あの2人なら痴情のもつれと言う名のサスペンスの王道が使えますからね。」 それもそうだな。もっともあの2人が痴情のもつれを起こす関係までいっているかは知らんないけどな。 「痴情のもつれ…森と国木田君……まさか……」 新川執事が何かに思い至ったように呟いた。 「どうした新川?」 圭一氏が新川さんに先を促す。新川執事は少し思案する様な仕草を見せたが、意外に短かく言った。 「はい。涼宮のお嬢さんは森に連れ去られたのではないかと。」 ………そりゃ安直すぎないか?少なくとも森さんには動機がないじゃないか? 「我々機関の人間は涼宮さんによって無理矢理異業の能力を持たされたてしまった者達です。それだけでは動機になりませんか?」 古泉、お前の言いたい事は分かる。しかしだな、森さんは以前現状維持を望んでいると言ったんだぜ?それを今更ひっくり返すか? 「今だからあるのですよ…そうでしょう新川さん?」 「はい、森は機関の事を国木田君にうち明けるかどうかを酷く悩んでおりましたからな。」 しかし…たったそれだけの理由でハルヒを誘拐してどうにかしちまおうと思わんだろ……俺にはあの実は中身が黒そうな年齢不承な美人メイドさんが、色恋沙汰程度でトチ狂う様には思えないけどな。 しかし、国木田はまだ外を探してて正解だな、さすがに今の話を聞いたら混乱するだろうしな。 「取り敢えず捜索を再開しましょう…まさかの事態は……流石に僕も避けたいですからね。」 まさかの事態なぁ…もしそんな事が起きてもあのハルヒだぜ?いや、でも森さん相手だと厳しいかも知れんって別に俺は心配してるワケじゃないからな!しかし…なんで落ち着かない気分になるんだ? 取り敢えず別荘の周りを徹底的に探す事にした俺と古泉は別荘の倉庫の中を探していた。 「あれは……」 どうした古泉?ってあれは…… 倉庫の床に、いつもハルヒが着けているリボン付きの黄色いカチューシャが落ちていた。 ドクン 心拍数が一気に跳ね上がる……まさか…嘘だろ?! 「おい、古泉……これは…」 「僕もここに入ったのは初めてですから、なんとも言えませんが…この倉庫を重点的に探すしかないでしょう。」 という訳で古泉と2人で倉庫の中を探し出したんだが…俺は気が気じゃ無かった。 最悪の事態ばかりが頭をよぎり、全身から嫌な汗が吹き出し、喉がカラカラになる……クソっ!ハルヒ…無事でいてくれ…等とガラにも無いキャラで倉庫を探していると…何故か古泉の野郎がいつものいけ好かない微笑みでこっちを見てやがる。 「なんだよこんな時に…」 「いえ、先程までとは随分様子が違いますので…どうしたのかと。」 「だってお前、これは洒落にならんだろ?」 俺はハルヒのカチューシャをニヤケ面に突きつける。 「仮に森さんが涼宮さんを誘拐したとしたらこんなヌルい手掛かりは残さないでしょう?」 そりゃあそうかも知れんがな…嫌な予感がするんだよ。そうだな…お前が森さんの立場ならどうする? 「そうですね…追い詰められれば、涼宮さんを亡きものにする。という選択肢に辿り着いしまうかも知れませんね。」 などと洒落にならんた事を言った後、失礼貴方への配慮を忘れていましたと苦笑しながら付け加えて、また倉庫の中を探す作業に戻った。……俺はそんな酷い顔をしていたのだろうか? 因みに倉庫はかなり広かった。長門が住んでるマンションの一室とまでは言わないが、学校とかによくある体育倉庫の比じゃなかったな。まったく、よくもハルヒのカチューシャを見つけられたもんだと古泉に関心してやらん事もない。 しかしハルヒを亡きものに発言は許せんな。 って論点ずれてるな俺…これじゃ俺はまるで俺はアイツを…いや、違う!違うぞ!断じてそれはない!いや、あってたまるか?!そうだ、あいつは確かに見た目は可愛い、美人だと思うな。 しかし、しかしだ…その中身に難が有りすぎる。複雑奇怪で自己中心的で人の話を聞かないんだからな…まぁそれさえも今では心地よい訳であり朝比奈さんのお茶に勝るとも劣らない俺の癒しの……ってあれ?何か思考がずれてないか? オーケー落ち着け俺。ただハルヒが心配だから思考が狂っているだけであってそれ以外の何物でもない!そうだよな、俺は別にあいつに特別気があるだなんて… 「心配で思考が狂うとは…そこまで涼宮さんを大切に思っているのですね。」 あぁ…そうさ…俺はきっとあいつが大せ…って古泉!お前やっぱり人の思考を覗けるのか!? 「………全部口からだだ漏れなんですが……。んふっ…まぁ良いでしょう、あなたの涼宮さんへの気持ちは分かりましたから捜索を再開しませんか?」 …何か好き勝手言われてる気もするが取り敢えず今はハルヒと森さんを探すのが先決だからな、古泉の妄言は華麗にスルーしておいてやろう……後で言及させてもらうぞ……っておぉぅ?! 先程説明したが、此処は無駄にだだっ広いが、物が乱雑に置かれた倉庫だ。俺が油断してダンボールに躓くのは差し当たって何の問題も無い……がその後が最悪だった。 躓いてよろけた俺は必死にバランスを保とうと、天井から垂れ下がっていたロープを掴んだのだが… ガゴッ!……ガタンッ! って隠し階段!? 助けを求めようと古泉を見たが…あの野郎電話してて、こっちに気付いてねぇぇぇぇぇ?! 哀れ俺は足元の床が動いて現れた下りの階段を転げ落ちた。 くっそ、痛ってぇなぁ…どうやら階段はあまり長い距離を降りる物では無かったらしく、俺に怪我は無いが…ったく、忍者屋敷かよここは? まさかハルヒに合わせて改築でもしたのか?とことん傍迷惑なヤツだなアイツも、しかしこんな地下まで作ってあるって事は、今回も機関のサプライズイベントだなこりゃ。目の前に「ここは怪しいですよぉおぉぉお!」って絶叫してる様な扉もあるし間違いはないだろ? さて今回はどんなイベントなのかね?なんて軽い気持ちでドアノブを手にした俺に聞こえてきたのはハルヒの悲痛な俺を呼ぶ声だった。 「ハルヒっ!?」 絶叫しながら扉を開けた俺の目に飛び込んできたのは、今まさに森さんに胸を刺されたハルヒだった……… 「あら…一足遅かったみたいですね…」 残酷で凄惨な笑みを浮かべたメイド姿の悪魔は俺に振り返るとそう言いながら、俺に見せつけるようにナイフをぐりぐりと捻り引き抜く。 ハルヒ体がビクンと痙攣し胸元から鮮血が吹き出し床に崩れ落ちる。 残酷な笑みを浮かべたメイドに返り血が真っ赤に染める。 「フフッ…アハハハハハッ!ハハハハハハハハッ!」 部屋に彼女の壊れた様な哄笑が響く。 あまりにも凄惨で狂気じみた光景に、俺はその場から一歩動けなかった。 「あらあら情けない人ですね…てっきり飛びかかってくると思ったのですが……そんなに私が恐ろしいのですか?」 森さんは俺を挑発するように嘲笑するが、俺の体は麻痺したように全く動かなかった。 「ふふっ…まぁ良いでしょう後は国木田君を快楽に堕として奴隷にすれば全て終わりですものね。」 メイドの姿の悪魔は舌なめずりをしながらそう言うと、俺が入ってきたのとは別の扉から去って行った。だが、今の俺にはそんな事は関係ないそれよりも…… 「ハルヒっ!」 俺は凄惨な光景に萎える俺の足を気力を総動員して何とか動かし、ハルヒを抱き起こした。 よく見ると抵抗出来ない様に後ろ手に縛られ、足も拘束されていた……ハルヒの体はまだ暖かだった…今も胸部からは赤い液体が流れ出て俺とハルヒを染めて行く… 嘘だろ…こんなのってありかよ?俺はまだこいつに何にも言ってないんだぜ?って何を言うつもりなんだよ俺は?違うな……もう止めようぜ、自分でも見苦しいだろ? 「なぁ…ハルヒ…ごめんな…こんな風になるまで気付かなくて…最悪だよな…失ってから気付くなんて…ハルヒ…俺お前の事が好きだったみたいだ。」 失ってから気付くなんて言葉はあるが、俺はどうなんだろうな?気付いてたのに知らないフリをして居ただけなのかもな。 「ハルヒ…ごめんな、こんな大馬鹿野郎で……」 唇を半開きにし、目を閉じたハルヒに俺は唇を重ねる。あの時以来のキス、現実世界のそれの味は何だかしょっぱかった。 そしてゆっくりと、どちらからとも無く、舌をおずおずと絡め深く口付け、唾液を交える…あぁ…キスってこんなにゾクゾクするモンなんだな…… ……あれ?ちょっと待て、今おかしく無かったか?「そしてゆっくりと、どちらからとも無く、舌をおずおずと絡め深く口付け、唾液を交える」って何だ? ハルヒは例の狂気のメイドさんに胸を刺されて今も血を流してて…まぁどう考えても舌を絡められる筈はない。俺は少し冷静になって考える為に唇を離しハルヒの顔を見る。 少し瞳を潤ませ、唇を半開きにし頬を少し紅潮させている。「キョン…もっとちゃんと…」と言いたげな物足りなさを訴える艶めかしい表情…ってまてい。 取り敢えず考えてみよう。 1ハルヒは今さっき胸を刺されて崩れ落ちた。 2今は瞳を潤ませて俺を見つめている。 3血がこんなに溢れてるのに血臭がしない。 4長門に朝比奈さん、古泉含む機関の面々がでっかい「ドッキリでしたw」って書いたデカいプラカードを持って乱入してきた。 さて問題です!これはどういう事でしょう? A機関のサプライズ B機関のサプライズ C機関のサプライズ D機関のサプライズ どれも違うな答えは Eハメられた、だ! ファイナルアンサー? ファイナルアンサー …………………正解。 あぁあぁああああああああぁあぁあぁぁ!!1!!1!1! 「ごめんねキョン…どうしてもアンタの気持ちを知りたくて……」 しかしだな物事には限度があるだろ?いや…こいつに限度なんてないか……まぁ元はと言えばいつまでも自分の気持ちに気付かなかった俺が悪いんだろうな……俺こそごめんな……ハルヒ。 「何泣いてんのよ?ここはやって良い事と悪い事があるだろ!って怒るトコじゃないの?」 「……うるさい。良いんだよ…俺はお前が居るだけで嬉しいって喜びを噛み締めてるんだからな。」 「何恥ずかしい事言ってんのよ……バカキョン……でもね、あんたのそんなトコもその…すっ好きよ。」 ハルヒのバカキョンがこんなに嬉しいなんてな…恋愛は精神病ってのはこいつのセリフだが……俺のはかなり重いらしい。 「さて皆さんは我々はお邪魔なですし別荘でゆっくりしましょうか?」 「そうね……血糊とは言え流石に気持ち悪いわ。」 「しかし青春ですなぁ。」 「しかしたった1年で別荘をここまで改築するとは思わなかったよ。」 「じゃあ、みんなもどろうか?」 「それでは皆様お疲れ様でした。」 「「「「お疲れ様でした~」」」」 古泉の号令に従って機関の面々はゾロゾロと扉を出て俺が転げ落ちた階段を登って去っていった。 「取り敢えずおめでとうかな?じゃあキョン、僕達も別荘に戻るね。」 「ぐすっ…良かったですぅ……本当にキョン君も涼宮さんも…」 「………お幸せに。」国木田、朝比奈さん、長門も俺とハルヒに賛辞を述べ部屋を後にした。 「じゃあ、涼宮さんとごゆっくり……そうそう、ここと隣は自由に使って下さって構いませんから明日の朝出発前にまた来ますね。」 そう言い残して古泉が最後に扉をでた後、ガチャリと何かが閉まる嫌な音がした。ひょっとしなくても俺達閉じ込められた? 「あっ大丈夫よキョン。隣の部屋になんでもあったから。」 ……え~とハルヒさんそう言う問題じゃないような…… 「流石にあたしも血糊が気持ち悪いし、シャワー浴びてくるわね。」 そう言うとハルヒは自分で縄を外し隣の部屋へ消えてしまった。何か色々置いてけぼりなんだが……そう言えば俺も血糊塗れだな…あいつの後でシャワー浴びるか。 ハルヒを追って入った隣の部屋はまるで高級ホテルの一室の様な部屋だった。金かけてるな機関。 だがしかし、お互いの気持ちを告白したばかりの男女にこれは早くないか?俺の考えがおっさん臭いのだろうか? 俺が1人悶々としているとハルヒがシャワーから出てきた。しかもバスローブ一枚で…… 「サッパリして気持ち良かったわよ?あんたも入って来たら?それ気持ち悪いでしょ?」 俺の血糊でベトベトの服を指差して笑う。 お前…意味分かって 「うっさいわね、分かってるわよ!決心もしてる。だから…行ってきて。」 ハルヒがじっと俺を見つめてくる。どこか不安そうな、でも強い意志を秘めた瞳で……やれやれ、そんな目されたら断れないだろ? さて……どうするんだこの状況は?俺はシャワーの温度を水並してに浴びながら、まるで滝に打たれる修行僧の様に目を閉じ考え込んでいた。 確かに俺も健康的な一般男子校生だし性欲もある。好きな少女と肉体的に結ばれるなんて、正に夢の様な状況だ。 だが……それでいいのか?俺はあいつの不安混じりの決意を秘めた表情なんて見たいんじゃない。俺がいつも見ていたいのは…朝日を反射する海よりもキラキラと輝くあいつの笑顔のはずだろ? なら…答えは決まってるだろ?スマンな……古泉せっかくここまでお膳立てを整えてくれたのにな…… 「で……良かったの?もうあんなチャンスないかも知れないわよ?」 良いんだよ。それともそんなにしたかったのかエロハルヒ? 「ばっ?!バカ!!エロキョンに言われたくないわよ!アタシ知ってるのよ?あんたが昨日一睡もしてないの。」 ほうほう…お前も寝てないのか奇遇だな。 「何がお互いの昔話をしないか?よ格好つけ過ぎよ…」 全く…顔を真っ赤にしながら強がっても説得力ないぜ? 帰りのフェリーの中結局最後の一線をこえられなかった俺とハルヒは2人で海を眺めていた。 正直ちょっと残念な気もするが後悔はしていない。告白とキスが同時になっちまったしな…その分他は遅くても構わないだろうさ。 「なぁ…別れ際に森さんと何を話してたんだ?」 「だ~め、女同士の秘密なのよ!まっ、何で別荘の掃除のために国木田が森さん達と一緒にもう一日残ったのか考えなさい。」 何となく分かるような分からんような…まぁいいか、新学期に国木田から聞いてみれば良いことだしな。 それよりハルヒ… 「んっ?何よ…改まっちゃって…」 「あ~その何だ、ちゃんと言って無かったらからな…そのだな、俺とつ、つつつきあっ」 「あ~はいはい、分かってるから無理しなくて良いわよ……ホっントに昨日の事と言い、妙な所で硬いのよねあんたは…」 ハルヒは俺の大好きな大胆不敵な笑顔でこう言った。 「まぁ、そんな所もバカキョンらしくてアタシは大好きだけどね。」 やれやれ、バカ呼ばわりされて顔がにやける俺も相当重い病気だな。 まぁ、なんだ…俺もお前のそう言う気の強い所嫌いじゃないし、その笑顔が何より大好きだぜ…ハルヒ。 森園生の電子手紙エピローグ2 番外編涼宮ハルヒの誘拐 終わり。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1430.html
キョン「よ、おはよう」 ハルヒ「おはよ!相変わらず朝から気合の入ってない顔してるわねえ」 キョン「普通の朝はこれが標準なんだよ」 朝倉「あらキョン君、おはよう。今日も元気そうね」 キョン「あ、ああ。おはよう」 ハルヒ(フン!イヤなヤツがきたわ。外ヅラはかわいい顔してるけど、 腹の中じゃなに考えてるかわかったもんじゃないわね。この前 私の体操服が盗られたことだって、きっとコイツの仕業に違いないわ) 朝倉「あれ、涼宮さんどうしたの?急に静かになっちゃって。気分でも悪いの?」 ハルヒ(ええそうよ。あんたのせいでね!) キョン「朝倉、コイツの面倒はオレが見るから大丈夫だ」 そういうと朝倉は目をうっすら細くして答えた。 朝倉「あらそう?じゃ、キョン君にお願いするわ」 そういうと朝倉は女子の輪の中へ戻っていった。 キョン「おいハルヒ、朝倉のことがあんまり好きじゃないのは見ててわかるんだが、 せめて朝のあいさつぐらいしたらどうだ?一応委員長だしな」 ハルヒ「関係ないわ。私はね、アイツみたいに狸の皮をかぶって本性を隠してるようなヤツが 大嫌いなのよ!有希が言ってたけど、中学時代のアイツは今から想像できないくらい 荒れてたらしいわよ。アイツ高校に入ってからずっと猫かぶりっぱなしよ」 キョン「その話が本当だとしてもだ。あいさつぐらいは別にかまわんじゃないか。 それにお前は本性を現しすぎなんだよ。もうちょっとおしとやかにしてみろ。 きっと朝倉くらい人気が出ると思うぞ」 ハルヒ「フン!アホくさい。それに前言ったでしょ!アイツ私の体操服を」 キョン「しっ!・・その話は言わないっていったろ。朝倉がやったっていう確証がないんだ。 それに今お前が朝倉とおおっぴらに対立したら、ますますクラスで孤立することになるんだぞ?」 キョンは大きくため息をついた。 キョン(なんだってコイツは社交性が皆無なんだ?) 2時間目は体育だった。女子は体育館でバスケットボール、 男子はグラウンドでトラック競技である。 キョン(ハルヒのヤツ、朝倉とケンカしなきゃいいんだが・・・) 谷口「ようキョン、どうした?恋煩いか?」 キョン「ドアホ、・・・なんでもねえよ」 谷口「ははあ・・・お前、もしかして涼宮のこと考えてたな」 キョン(ドキッ) 谷口「お前は考えてることがすぐ顔に出るからな・・・ 今朝の涼宮と朝倉、一触即発だったじゃねえか」 キョン「な、なんでそんなことお前に・・」 谷口「バーカ、よく見てりゃそんぐらいわかるんだよ。涼宮が朝倉をにらむ目は ハンパじゃねえからな」 キョン(・・・・・・) 谷口「でも朝倉と対立するのはよくねえな・・・アイツは1年のアイドルとして 名前が知られちゃいるが、本性はなかなか黒い性格してるってウワサだからな」 キョン「それ、本当か?」 谷口「ああ。朝倉と同じ中学出身のヤツに聞いたんだが、中3のときアイツと ケンカした女子がいたらしいんだ。理由まではわからんがな。 そしたら次の日から、おそらく朝倉の命令だろうな。その女子が徹底的に 無視され始めたんだとさ。かわいそうに、その子は一週間あまりで 登校拒否になったらしい」 キョン「・・・マジかよ」 谷口「さあな。オレが真相を確かめたわけじゃないから断言はできんが、 ともかく朝倉だけは敵に回さないほうがよさそうだぜ。涼宮には お前からよく言って聞かせとけよ」 キョン「・・・一応、忠告として受け取っておくよ」 一方そのころ、体育館では・・・ 現在、ハルヒ率いる赤チームと朝倉率いる青チームの試合が行われていた。 別に二人がキャプテンをつとめているわけではないが、飛びぬけて 運動能力の高い両者は試合全般にかけて活躍し通しであった。 瀬能「涼宮さんて運動神経抜群ねえ」 阪中「そうよね。ちょっと憧れちゃうのよね」 瀬能「それに、朝倉さんもすごいよね。さっきから5回連続でシュート決めてるわ」 阪中「あの二人、あんなにすごいのに運動部入ってないのよね」 朝倉(涼宮さん、さっきから少し目障りね・・・) 朝倉はすっと目を細めてハルヒを見た。それからチームメイトに耳打ちをはじめた。 現在、オフェンスはハルヒチームである。ハルヒは華麗なドリブルで 敵ディフェンスの輪をかいくぐり、ゴール近くまで進んでいた。 ボールを奪いにきたディフェンスの一人がハルヒにすかされて 大きくバランスを崩し、派手に転んだときであった。 転んだと同時に朝倉はハルヒに体当たりをかけた。 ハルヒは大きく飛ばされ、床に倒れた。 ハルヒ「いったぁ・・・」 見るとハルヒはわき腹を痛めたのか、手を当てたまま動かなかった。 朝倉「涼宮さんッ!大丈夫!」 朝倉は大げさに声を上げると、ハルヒにかけよった。 朝倉「ごめんなさいね。ちょっと力が入りすぎてしまったの。さ、手を貸すわ」 ハルヒは一瞬朝倉を睨んだが、すぐに目をそらした。 ハルヒ「・・・いいわ。自分で立てるから」 朝倉「あらそう、それなら安心したわ」 そう言いながら、再び朝倉は目を細めた。 朝倉のタックルは、直前にころんだ女子のせいで審判の目が行き届かなかったらしく、 不問とされたようだった。 その後試合は、ハルヒがわき腹を痛めたせいで思ったように攻撃ができず、 防戦一方となった。 結果的には、朝倉チームにかなりの得点差をつけられた末、ハルヒチームは敗れた。 朝倉「まったく、うまいことやってくれたわね」 鈴木「アンタのタックルもかなりえげつなかったわよ?涼宮のヤツ、 かなり痛そうにしてたわね。骨にヒビでも入ったんじゃない?」 朝倉「そのときはね、お見舞いにでも行ってあげたらいいのよ」 女子A「キャハハハ!涼宮かわいそー!」 2限終了後、朝倉たちは水のみ場で、えらくわかりやすい悪事の解説を行っていた。 長門「・・・・・そこ、使っていい?」 朝倉「あら?長門さんじゃない。こんなところに何の用?」 長門「次の時間は書道。水を汲みにきた」 朝倉「ふーん・・・あ、そうそう。あなたのサークルの団長さんね、さっきの体育の時間に ケガしちゃったみたいなの。私が心配してたって後で伝えといてちょうだい」 長門「・・・そう」 水を汲み終わった長門はすぐに教室に帰っていった。 朝倉「あいかわらず愛想のない子ねえ・・・」 鈴木「なに?あの陰気なヤツ」 朝倉「私の幼馴染よ。無表情な子だから何考えてるのかよくわからないの」 女子A「涼子、あんなのとつるんでたの?」 朝倉「ま、腐れ縁てヤツね。住んでる場所も同じマンションだし」 鈴木「・・・ふーん。アンタとは全然性格あわなさそうね」 キョン(次は数学か・・・ま、授業を聞くだけ無駄だな。それにしても、 体育が終わってからのハルヒはいつに増して不機嫌そうな顔してるな。 まさか朝倉とケンカしたんじゃ・・・) キョン「おいハルヒどうしたんだ?浮かない顔して、具合でも悪いのか?」 ハルヒ「なんでもないわ。ちょっとわき腹を痛めただけよ」 キョン「運動神経のいいお前がケガしたのか。めずらしいこともあるもんだ。 保健室には行ったのか?」 ハルヒ「たいしたことないわ。ほっときゃすぐに治るわよ」 その後ハルヒは、昼休みまでずっと不機嫌オーラを放ち続けていた。 昼休みになると、すぐに教室を出て行った。 谷口「おいキョン、どうやら2限の体育でひと悶着あったらしいぞ」 キョン「まさか、ハルヒと朝倉がケンカしたのか?そういやアイツ 体育が終わってからずっと不機嫌だったしな」 谷口「いや、ケンカってワケじゃないみたいだが、朝倉と涼宮が接触プレーしたらしいんだ」 キョン(それでアイツ、わき腹を痛めたって言ってたのか) 谷口「その接触プレーだがな。ただのハプニングじゃないらしいぞ」 キョン「どういうことだ?」 谷口「真相は不明だが、その接触プレーは朝倉が仕組んだってウワサが流れてるんだ」 キョン「おい、そりゃ本当か!」 谷口「だからウワサだって。しかし涼宮にとっちゃ、あまり状況はよくないみたいだな」 キョン(たしかに今のままでは、近いうちに大きな衝突が起きることは 火を見るより明らかだ。それにウワサが本当だとすれば、ハルヒに非はない。 一体どうすれば・・・) 谷口「ま、お前もそろそろ真剣に考えたほうがいいぞ。手遅れにならないうちにな」 なぜかこのクラスでは、オレはハルヒのお目付け役というポジションに付けられているようだ。 それというのも、オレたちが高校に入学して間もないころに、 オレはハルヒがでっちあげたSOS団などというオカルトサークルに 強制的に加入されられたからだ。 それ以来、オレは社交性0のハルヒとクラスとのパイプ役を勤めているってわけだ。 弁当を食い終わるとオレは文芸部部室に向かった。 ……表向きは文芸部であるが、その実体はハルヒが作ったSOS団などという わけのわからないサークルの巣窟となっている。 オレは部室のドアを開けると、中にいた少女に声をかけた。 キョン「よ、長門。いつもご苦労なこったな」 長門は奥の机でハードカバーの本を読んでいた。彼女はただ一人の文芸部員であったが、 ハルヒに目を付けられたのが運のつきであった。それ以来ハルヒがこの部室に居座るようになり、 文芸部は今や有名無実化していた。・・・まあ、長門にしてみればハルヒがいてもいなくても 読書できることに変わりはないのであろう。 キョン「ちょっと聞きたいことがあるんだ」 そういうと長門は本を閉じ、オレに視線を移した。 長門「なに?」 キョン「朝倉涼子・・・って知ってるだろ」 長門「私の幼馴染」 キョン「その朝倉について、詳しく教えてもらいたいんだ」 長門「なぜ?」 そういいながら長門はまっすぐにオレの目を見つめてくる。・・・うーん、なんだか居心地が悪いな。 キョン「その、うまく言えないんだが、ハルヒのヤツが朝倉と仲悪くてな。 どうにかして仲良くしてもらいたいと思ってるんだ」 長門「朝倉涼子と涼宮ハルヒの性格は水と油。仲良くするのは困難であるように思う」 それぐらいはオレにもわかるんだが。 キョン「うーん、そこをなんとかだな・・・そうそう、朝倉ってどんな性格してるんだ?」 長門「彼女の性格は表面に現れているものがすべてではない。常に本音を隠しながら 人と接している」 キョン「てことはだな。表面上は仲良く接しているように見えても、 実はソイツのことを嫌っているってこともあったりするのか?」 長門「今までの経験上、そういうことは多い」 やっぱりそうか・・・本性が黒いってウワサももしかしたら本当かもしれんな。 キョン「なんでそこまでわかるんだ?アイツはお前にだけは本音を話しているのか?」 長門「彼女は表面的には誰に対しても同じ接し方をする。・・・でも、私にはなんとなくわかる」 幼馴染だけに性格の深いとこまで理解してるってことか。 キョン「そうか・・・ありがとな、長門」 長門「気をつけて」 キョン「ん、なにがだ?」 長門「彼女は敵意を抱いた相手に、決して直接に敵意を見せるようなことはしない」 …なるほどな。こりゃハルヒでも手に負えないかもしれん。 結局その日はハルヒの機嫌が直ることはなかった。 次の日、ハルヒのことが心配だったオレは少し早めに学校に着いた。 朝倉「あら、キョン君おはよう」 キョン「あ、ああ。おはよう」 教室に入ると、なぜか朝倉がハルヒの机の上に腰かけていた。 キョン「なんでお前がハルヒの席にいるんだ?」 朝倉「あら、ちょっとぐらい貸してもらってもいいんじゃない?まだ涼宮さんきてないみたいだしね。 それより少しお話しない?」 キョン「それは別にかまわんが・・・」 オレは戸惑いつつも朝倉をの会話を楽しんでいた。しかし、やがてハルヒが 教室に来る時間となった。 ハルヒは自分の席に朝倉がいるのを一瞥すると、さっさと教室から出て行ってしまった。 朝倉「あれ、涼宮さんあわててどこ行ったのかな?トイレかな?」 キョン「・・・朝倉、お前に聞きたいことがある」 朝倉「なあに?」 彼女は目を細めて聞き返した。 キョン「お前、昨日の体育の時間にハルヒにケガさせたんだよな?」 朝倉「涼宮さんには悪いことしちゃったわね。・・・昨日から心配だったの」 キョン「そのことだがな・・・お前がわざとやったんじゃないかってウワサを聞いた。 まさかとは思うが念のため聞いておきたい。それは本当のことか?」 朝倉「・・・ひどいこというのね。私がクラスメートをわざとケガさせるように見えるの?」 朝倉は大げさに、心外だという身振りをしながらそういった。 心底、疑われたことが悲しいという表情をみせながら。 キョン「ウワサが気になったんでな。直接確認したかったんだ。・・・疑って悪かった」 朝倉「疑いが晴れたならそれでいいわ」 彼女はオレに満面の笑みを見せると、自分の席に戻っていった。 しばらくしてハルヒが戻ってくると、ほぼ同時に担任が教室に入ってきてHRとなった。 そして、1時間目の間中ずっとオレはハルヒの不機嫌オーラを背中で受け続けていた。 ハルヒ「あんた、委員長萌えだったの?」 キョン「なんのことだ?」 休み時間になると、さっそくハルヒはオレに喰ってかかってきた。 ハルヒ「さっき朝倉とうれしそうに話してたじゃないの」 キョン「別にうれしそうじゃねえよ」 ハルヒ「鼻の下伸ばしてたクセに何言ってんのよ。おかげで私が遅刻するとこだったのよ」 キョン「朝倉なんて気にせず教室に入ってきたらよかったんだよ」 ハルヒ「アイツの顔なんて見たくもないわ!」 キョン「お、おい、あんまりでかい声だすな。聞こえるだろ」 ハルヒ「知ったこっちゃないわよ!」 そういうとハルヒは、女子グループの輪の中心で微笑んでいる朝倉を睨んだ。 視線に気づいたのか、朝倉はハルヒのほうをチラっと見て、それからこのオレに 微笑みかけてきた。 ハルヒ「・・・ふーん、朝倉もまんざらじゃないみたいね。よかったじゃない!」 キョン「お前、なに勘違いしてるんだ?」 ハルヒ「フン!」 ハルヒは窓の外に目をやると、それ以上は口をきかなかった。 その後もダウナーなオーラを無差別に拡散するハルヒに耐えながら、なんとか午前の授業が終了した。 国木田「涼宮さん、今日も機嫌悪そうだったね。やっぱりウワサ本当だったのかな?」 キョン「さあな」 谷口「あの様子だとそろそろ全面戦争も近いぜ。・・・ところでお前、今朝朝倉と 仲良く話してなかったか?」 キョン「しらねーよ。向こうから話しかけてきただけだ」 谷口「涼宮を裏切ろうってのか?ま、お前がどっちにつこうが知ったこっちゃないが、 お前に見捨てられたら涼宮はこのクラスで孤立するってことは忘れるなよ」 キョン「人の話を聞かないヤツだな・・・そもそもハルヒが孤立してんのは、 アイツが自ら招いた事態じゃねえか」 谷口「あれでも中学のころに比べたらだいぶマシになってるんだぜ?・・・たしかに 朝倉がかわいいのは認めるが、安易な乗り換えはオレをはじめとする男子軍団が 黙っちゃいないぞ」 国木田「そうそう。キョンには涼宮さんがお似合いってことだよ」 勝手なことばかり言いやがって。涼宮にせよ朝倉にせよ、オレに選択権はないのか。 ……っと、こんなことコイツらに聞かれようもんなら公開処刑されかねんな。 教室で弁当を食い終わると、オレはまた部室へと向かった。 キョン「よ、長門・・・はいないみたいだな」 めずらしく今日は長門が来ていなかった。 やれやれ、ハルヒと朝倉のことを相談しようと思ったんだが。 オレはイスを引いて腰かけた。 しばらくすると部室をノックする音が聞こえた。 キョン「どうぞ、空いてますよ」 朝倉「ちょっとお邪魔するわね」 なんと、入ってきたのは朝倉だった。 キョン「こんなところまで何の用だ?・・・教室じゃ言えないようなことか?」 朝倉「あら、つれないこというのね。わざわざあなたに会いにきた女の子に対して」 朝倉は笑顔を崩さずに話を続けた。 朝倉「アナタ、長門さんに私のことを聞いたみたいね」 キョン「・・・長門がそう言ってたのか?」 朝倉「あの子はそんなおしゃべりじゃないわ。ただ昨日からのあなたを見てて そう思っただけ。影でこそこそされるのはあまり好きじゃないの」 えらくストレートにきたな。一瞬あっけにとられてしまった。 キョン「それは悪かった。じゃ、オレもストレートに言わせてもらうよ。 ・・・あまりハルヒを刺激しないでほしい」 朝倉「それこそ心外ね。私は涼宮さんと仲良くしたいと思ってるわ。 あの子、クラスで孤立気味だから・・・あなただけには心を開いてるようだけど?」 不意にそう言われて顔が赤くなってしまった。・・・コイツはなかなかの強敵だな。 オレの表情を見た朝倉は、満面の笑みで話を続けた。 今度はオレが朝倉を見つめる番だった。 朝倉「なあにキョン君?・・・そうね、もしかしたら私も彼女の気に障ることを してたのかもしれないわ。今後は気をつけるってことで、ここは納得してくれない?」 キョン「・・・わかった。くれぐれも頼む」 朝倉「あなたにここまで心配してもらえるなんて、なんだか涼宮さんがうらやましいわ。 じゃ、そろそろ私はこの辺で。あなたたちもほどほどに教室に戻るのよ?」 そういうと朝倉は教室へ帰っていった。 彼女が帰ったあと、オレは再びイスに座りなおして大きくため息をついた。 キョン「なあ長門、今の朝倉の言葉、どう思う?」 長門「なんで私に聞くの?」 キョン「いや、お前ならアイツが本心から言ったかどうかわかるかな、と思ってさ」 長門「あなたはわからないの?」 たしかに、アイツと付き合いの浅いオレでも今のセリフは本心から言ってないってことは なんとなくわかる。 しかし、今日の長門は妙に冷たい気がするな・・・ 長門「私はどちらの肩も持たない。だからあなたの味方はできない」 長門の言葉を聞いてオレは驚いた。長門がはっきりとした意思表示をするなんて、 かなりめずらしいことだからである。 ・・・まあ、考えてみればかたや幼馴染、かたやSOS団団長の揉め事だ。 どちらか片側につきたくない気持ちは察せられる。 キョン「すまなかったな長門。ま、相談ぐらいには乗ってくれよ」 そういうと長門は黙ってうなずいた。 2話
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4751.html
『くちゃくちゃガム』今、北高の生徒の間で大人気のガムである。 おことわり 主音声は、通常の話ですが、副音声は、ガムを噛んでる音になります。 ご注意ください。 主音声 ハルヒ「ん~、くちゃくちゃガムはおいしいわね~。 あっ、朝倉さんだ」 朝倉「む」 副音声 くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ… 休みの日、くちゃくちゃガムを噛みながら、道を歩いているハルヒ。 偶然、別方向からハルヒの方に向かって歩いている朝倉を発見。 彼女もくちゃくちゃガムを噛んでいる模様。 くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ… 主音声 朝倉「ちょっと、散歩の邪魔よ。さっさと退きなさい。」 ハルヒ「なんですって!?」 ハルヒ「あんた、…私を怒らせる気?」 ハルヒ「文句があるのなら、いつでも相手になってあげるわ、 この野郎」 朝倉「あんたが私に逆らおうなんて8億年早いわよ。」 ハルヒ「それ以上言うと、私の必殺ドロップキックを食らわせてあげるわよ」 副音声 くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ… 主音声 ハルヒ「どうやらアンタ、死にたいようね」 朝倉「言っとくけど、死ぬのは涼宮さん、あんたのほうよ」 ハルヒ「ふん、後悔させてやるわよ、ゴミ野郎…」 朝倉「あんたの顔を面白い○○にまげてあげるわ」 ハルヒ「あんたのおでんの思い出を忘れさせてやるわ…」 朝倉「今日の晩御飯、遅らせてやるわよ・・・・」 ハルヒ「死ね―――――っ!!2年後に!!」 ドカッ、バキッ、ゴフッ 朝倉「痛ッ、やったわね!?あんたなんか8年前に死ねぇ――――っっ!!」 グサッ、グチャッ ハルヒ「じゃぁあんたは生まれる前に死ね―――――っ!!」 主音声 ハルヒは朝倉とケンカした一人、キョンの家に向かった。 そして、彼の家の呼び鈴をならした。 “ピンポーン” “ガチャ”っとドアを開けたキョン 「どうした、ハルヒ」 「ちょっと入るわよ」 「お、おい、どうしたんだよ」 ハルヒは無言のまま、キョンの家に入ってきた。 ~キョンの部屋にて~ そんなハルヒにキョンは、麦茶を入れてハルヒに渡した。 「朝倉め~。まだイライラするわ」 なにがあったのかキョンは気付いた。 「まさか、ハルヒ、朝倉とケンカしたのか?」 ただ無言でうなずくハルヒ。 「お前らしくないな。朝倉とケンカするなんて。 一体何が原因で、ケンカなんかしたんだよ。」 「イヤ、聞いてよー。それがねー。」 「思い出せねぇ―――――――――っっっ!!」 「なんか余計な音が混じってて…、全然思い出せないわ…。」 「いったいなんでケンカしたのか、朝倉さんに聞いてみる」 そういって部屋から出ようとした瞬間、ハルヒは『くちゃくちゃガム』を見つけた。 「あっ、くちゃくちゃガムだ(ハート)」 「あんたもこれ食べるのね」 「え?あ、…あぁっ…。」 「1枚もらってくわ。」 「よーし、行ってくるわ!!」 主音声 ハルヒ「ねぇ、朝倉さん。」 朝倉「ん?」 ハルヒ「私達、なんでケンカなんかしたんだっけ?」 朝倉「それが私も覚えてないのよ」 朝倉「まぁどうせ、あんたのくだらない行動が原因だと思うけど。」 ハルヒ「何ですって!?」 副音声 くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ… 主音声 ハルヒ「てめぇ、またやる気か?」 朝倉「ええ、いつでもやってやるわ。」 ハルヒ「おのれ、くたばれ―――――――っ!!」 朝倉「うっさいバーカバーカ」 ハルヒ「う○こう○こ」 朝倉「き○○まき○○ま――――っ!!」 ?????「やめろぉ――――――っ!!」 副音声 そういって出てきたのは、シャミセン。 こいつ自身もくちゃくちゃガムを噛みながら喋っている。 くちゃくちゃくちゃくちゃ… 副音声は引き続きガムを噛んでるくちゃくちゃ音でお楽しみください。 ハルヒ「シャ…、」 朝倉「シャミセン…。」 シャミセン「やめときな。ケンカなんて弱い事のすることだぜ。」 ハルヒは朝倉に指さして、 ハルヒ「で、でも…、最初に朝倉さんが…。」 シャミセン「・・・。いいかよく聞け。」 いつの間にかシャミセンは筋肉ムキムキになって、そして二人にこう言った。 シャミセン「友情は、かけがえのない一生の宝なんだ――――――!!」 それを聞かされた二人は、胸を打たれ、同時に自分のやった過ちを後悔した。 そして二人はシャミセンに抱きつき、泣きながら ハルヒ「うわ~~~ん、ごめんなさ~~~~~いっ!!」 朝倉「もうケンカなんかしないわ――――――!!」 副音声 くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃ… 主音声 ~放課後、部室にて~ ハルヒ「いや~、おとといは感動したわね~」 キョン「?ハルヒ、何に感動したのか?」 ハルヒ「聞いて頂戴。それがね。」 ハルヒ「思い出せねぇ―――――っっっ!!」 ハルヒは頭を抱え込んでしまった。 ハルヒ「あぁ、もう……。なんで思い出せないのよ~・・・。 いろんなことがあったのに…、なんかくちゃくちゃくちゃくちゃうるさくて…。」 ハルヒ「くちゃくちゃ?」 偶然テーブルの上にあったくちゃくちゃガムを見て、それをとって思った。 ハルヒ「これだ――――――――――――っっっ!!!!!」 キョンに抱きつき、 ハルヒ「原因がわかったよ―――!!これでもうくちゃくちゃ言わないよー!!」 ただキョンは唖然とした表情だった。 ハルヒ「この喜びを…、朝倉さんにも伝えてくる!!」 そういうと、ハルヒは部室を出て、学校から抜け、外へ出た。 キョン「おい、ハルヒ!」 ハルヒ「朝倉さーん、もうくちゃくちゃしないよー。」 キョン「おい、ハルヒ、待てよ!!」 キョンは走っているハルヒを精一杯追いかけていた。 ハルヒ「もうくちゃくちゃなんて…、一生言わせるものかー!!」 ドンッ! ハルヒは誰かにぶつかり、しりもちをついた。 ハルヒ「いった~、ちょっとどこを見てあるい……て・・・」 ハルヒの表情は変わった。 ぶつかった人物は、とても大きい人物だった。 それは”神人”だった。 神人はかなりお怒りの様子。 指でこいこいと合図をしている。 自分のことかなと思いハルヒは自分に指を指した。 神人はコクリと返事をし、彼女は”神人”の方へ向かった。 一人取り残されたキョン。 しばらく無音だったが、 ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ…… ハルヒが”神人”にやられてる音が聞こえる。 キョンは一人この音にビビッていた。 ~おわり~ 元ネタ 「くちゃくちゃガムじゃっ!」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4103.html
「没ね」 団長机からひらりと紙がなびき、段ボール箱へと落下する。 「ふええ……」 それを見て、貴重な制服姿の朝比奈さんが嘆きの声を漏らす。 学校で制服を着ているのが珍しく思えるなんて我ながらオカシイと思うが、普通じゃないのはこの空間であって、俺の精神はいたって正常だ。 「みくるちゃん。これじゃダメなの。まるで小学校の卒業文集じゃない。未来の話がテーマなんだから、世界の様相くらいは描写しなきゃね」 ハルヒの言葉に朝比奈さんが思わずびくりと反射するが、ハルヒは構わず、 「流線形のエレクトリックスカイカーが上空をヒュンヒュン飛び交ってるとか、鉄分たっぷりの街並みに未来人とグレイとタコとイカが入り混じってるとか。そーいうのがどんな感じで成り立っているのかをドラマチックに想像するの。将来の夢なんかどうでもいいのよ。それにドジを直したいだなんてあたしが許可しないわ。よってそれも却下」 グレイは未来の人間だって説もあるんだから、下手するとその未来は単に魚介類が陸上歩行生物に進化しただけの世界になるかも知れんぞ。まあ、どうでもいっか。 ハルヒは朝比奈さんに対し一通りダメ出しを終えると、ふてぶてしく頬杖をついてピッと朝比奈さんの指定席であるパイプ椅子を指さし、そこに戻ってもう一度やり直しという指令を無言で示した。 「うう」 朝比奈さんがカクンとうなじを垂れる。 それはハルヒの電波な未来観にへこまされているわけじゃあなく、いや実はそれもあるかも知れないが、今はもっと別の理由が考えられる。それはリテイクの厳しさを三倍程度にしちまう理由だ。 指示を受けてずるずると定位置へと引き返す朝比奈さんの後姿を見送りながら、ハルヒは団長机をパシンと叩き鳴らし、 「ちょっとみんな! 今回はノルマも少ないし、ページ数だってやたらになくてもじゅうぶんなの! 気張りなさい!」 俺はやや不機嫌なトーンを呈したハルヒの叱咤を半身に受けながら、パソコンを挟んで対面している古泉へと鋭利にこしらえた視線をありったけ突き刺し、それを受けた古泉は苦笑しながら、予想外でしたという陳謝を俺にアイコンタクトにて返信する。 しかし、これまた困ったことになっちまった。 ハルヒの腕章に黒マジックでしたためられた文字が今は何を表しているのかもう分かっている頃だと思うが、現在の涼宮ハルヒの役職は編集長である。 それはまさに肩に書かれているだけで、自称以外の何者でもないのは既に周知の事実であろう。 とゆうか、打ち上げ花火のような事件のときに作ったその布切れをよっくぞまあ今まで保管しといたもんだ。俺としてはそれが再び陽の目をみることなく、そのまま日に焼けない様に永久保存されといて欲しかったね。今からでも遅くないぞ。ついでにSOS団の皆が抱えてるトラウマも一緒に凍結しといてくれ。 「……それも良いかもね」 カチリ、何か良からぬものを踏んじまった音がした。 幻聴であって欲しいと俺の耳は切に願ったが、 「そうだわっ! SOS団の偉業を未来人に知らしめるために、あたしたちの功績を遺産として残すのよ! 今回の詩集だってもちろん入れなきゃね!」 俺の目は、今にも花びらが炸裂しそうなハルヒスマイルを映していた。 「何にだよ」 わかっちゃいるがな。一応。 「タイムカプセルに決まってるじゃない!」 ハルヒは色めきたって、やけに懐かしいワードを口に出した。 まあ正直なところ、俺もその計画自体に物言いをつけようとは思わん。が、それにはこれから書かされるであろう詩集は入れないぜ。 「なんでよ?」 「なんでだろうな」 そんなもん決まってる。他動詞的に作られたポエムがまともな形を成すとは思えんからだ。 それに前回の機関誌ならハルヒの論文が未来人にも有用だそうだからまだいいものの、今度の詩集ばっかりは後世の人間が見たところで「こいつぁクレイジーなヤロウだ!」とかいった驚嘆句しか出てこないだろう。未来に欧米かぶれがいるかは知ったこっちゃないが、無駄な驚きで寿命を無為に減らすのは気の毒である。なので、出来上がった詩集は俺が墓場まで持っていこうと思う。 「…………」 ――何だか長門の無言が聞こえた気がした。気のせいか? 「ってゆーか、そんなことを話してる場合じゃないでしょうが!」 ハルヒが不機嫌を取り戻す。それもやるけど、と続けて、 「みくるちゃんは受験生だし、あたしたちもボヤボヤしてらんないでしょ。学校があわただしくなる前に今年分の会誌は急いで仕上げないと困るの! これにつまずいてる様じゃ、これから先の団の活動に支障がでちゃうじゃないっ!」 一見まともなことを言っているようだが、よくよく考えればSOS団本位でしかない主張を団長もとい編集長はがなりたてている。 ――と、ここで一度、現在の俺たちの状況を整理しておこう。 場所はもちろんSOS団本部兼文芸部室である。 時の頃をおおまかに言うと、朝比奈さんが受験生なので俺たちは高校二年生ということになり、もう少しばかり掘り下げると一学期の初頭で、その時期に俺たちは二回目の機関誌の製作に取り掛かっているってわけだ。 我らが北校の学校方針から考えるにそれだけでも十分全員が忙しい身の上であることは想像するに難くなければ、朝比奈さんにとっては未来に帰りでもしない限り、この世界で生きていく上で至極当然にリテイクを重ねられている暇などない。 更に悩みの種となっているのが、今回の機関誌の企画である。 詩集だって? 冗談じゃないぜ。 そんなら前回の小説の方が幾分マシだったねと言えるもんだ。 それに古泉、こないだまで俺たちゃあ結構奔走してただろうが。イベントのスパンが短か過ぎる。 俺の視線に込められたそんな訴えを古泉は受信し、窮したように顔を苦ませる。なにか含む所がありそうだ。 ついでに俺たちがどんな奔走をしていたかと言えば、俺の旧友である佐々木との再会、そしてSOS団とは別種の異能、異性質な輩たちとのいざこざや、長門の病気だ。 長門が学校を病欠したとき、一時は天蓋領域とやらの侵攻を受けたのかと心配したのだが、本人いわく只の風邪だったらしい。そうは言っても、長門がウイルスですらも無い下等な雑菌に敗北を喫すること自体異常事態であるのに違いないのだが。 しかし何も知らないハルヒからしてみればそれは正常な状態異常でしかなく、俺たちにも懸念を抱く以上のは出来そうになかったので、長門には一般的な病人に対する普通レベルの介抱を行うことにした。 皆の心配を一身に受ける長門は、 「何か食べたいもんでもあるか?」 「お寿司」 などといった要求はしなかったが、心なしか、守られる側に立った状況を存分に味わっているようだった。 そしてハルヒは泊まり込みで看病するとガヤいだのだが(俺もそれには賛成だったが)長門の強い希望により、俺たちは日付が変わる前には渋々と部屋を出ることとなった。 そして何故か帰宅の途につけという要求は朝比奈さんに対して特に強かったようで、 「特に朝比奈みくる。あなたは早く帰って」 という言葉も賜った。 ……流石にショックだったせいか、次の日の朝比奈さんの挙動はかなり変だった気がする。 しかしまあ、既に出揃っている特殊な奴らは倍になったというのに、一向に異世界人は姿を見せんもんだ。 とは、俺が異種SOS団との諍い時に漏らしてしまった、会いたいという願望とは違った意味の言葉だ。 そのときの俺の言葉に対し、古泉は「もしかしたら、既に異世界人は僕たちと邂逅を果たしているのかも知れません」ときた。どういうことかと尋ねれば、 「異世界人は、異世界に存在することによってその定義を満たします。しかし、例えば未来人は時間を操作することよって、宇宙人は未知の知識によって、そして僕などは超能力の行使によって己の存在をより明確なものにしますが、異世界人はただ異世界から訪れたというだけで、僕たちにとって普通の人間以上の存在には成り得ない可能性があります」 もっとも、それが一般的な人類ならばの話ですがね。と続けて、 「なので、むしろ既にこちらの世界には別の世界へと渡る能力を持った者が存在し、そしてその者は、僕らの関知し得ない世界でSOS団に尽力しているのかも知れません。今の僕たちが存在するのも、その人物が異世界で頑張ってくれているからなのかも知れないのです」 つまり異世界人は異世界で頑張っているということなんだそうな。 どっちにしろ推察の域を出ない話だし、仮に現実だとしてもそれは認識の外だ。 まあ、もしそれが本当なら、一度は会ってみても良いかも知れん。 何だかんだいって、俺はハルヒが作ったSOS団とこの生活を気に入ってるんだからな。 そして異世界人が俺たちと同様同等の苦労をしているであろうことは身を持って分かることなんだし、俺が感謝の意を唱えてその苦労をねぎらっても悪くはあるまいて。 っと、話が脱線気味になっちまった。その軌道修正も兼ねて、少し時間を遡って今回の事の起こりから辿っていってみることにするか。 それでは回想列車、レッツゴー。 ……… …… … 放課後の文芸部室。佐々木たちとハルヒ以下俺たちとの一件も多少の落ち着きを見せ、俺たちSOS団全員が比較的普段通りの活動に従事していたときだった。 コンコン。 「失礼する」 扉をノックする音が聞こえたと思いきや、返答を待たずにすらりと長身な眼鏡の男とそれに伴う女性、つまり腹づもりの黒い生徒会長と喜緑さんが部室へと進入してきた。 「なにしに来たのよ。なんか文句でもあんの? 勝負事なら喜んで受け取るけどね」 生徒会からSOS団に対する文句などは重々にあるだろうし、勝負を受諾されても困る。 「ふん」 会長は入り口に立ったまま、 「君に対する苦言なら山のように持ち合わせているが、生憎そのようなものを言い渡しにこんな辺境までやって来る程私は暇ではないのだ。今日こちらへ足を運んだのは他でもない。一つ気になることがあるものでな」 「なによ。言ってみなさい」 ハルヒの方が偉そうなのは毎度のことだ。 「どうやら文芸部には新入部員が居ないようだが、その分で今年度の文芸活動は一体どうするつもりなのかね?」 「は?」 とは、俺の口をついて出た言葉だ。 ……以前にも、生徒会から文芸部的な活動を求められたことはあった。 それは文芸部およびSOS団潰しのある意味で真っ当な思惑によるものだったのだが、しかしてその実態は裏で古泉が根回しをしていたことによって発生したイベントで、しかも既に事の収まりを見ているはずだ。 それに文芸部部長の長門だって、新年度のクラブ紹介で分かる人が聞けば見事なのであろう論文を発表しているんだし、文芸活動はそれでオールクリアーにしときゃあ通るだろう。いいじゃん、それで。 しかもこれから進路の話やらで忙しくなるっちゅうのに、また機関誌でも発行しろとの一言が発せられるものであれば、ものの見事に層の薄いSOS団はペシャンコになっちまうぜ。本当に俺たちを潰す気か? 会長は。 そう思って俺は古泉に目配せしたが、何故だか古泉もハンサム顔に微小な驚きの色を浮かばせていた。 これは成り行きを見守っていくしかないなと思い、俺はそれ以上言葉を作らなかった。 「もちろん会誌を製作するわよ」 ハルヒは元から俺たちを潰す予定だったらしい。 「いや、それはもう良い。今回文芸部には、来年度用の我が学校のパンフを製作して貰おうかと思っている。潤沢に割り当てられた部費が、不明な団体の意味不明な活動で消費され尽くしてしまってはかなわんからな。それにこの時期は私も色々と忙しい。それもあって、例年は生徒会執行部が製作している学校案内書を君らに一任してみようとなったわけだ」 なるほど。来年用のパンフなら時間だって十分あるし、写真を切り貼りして文章をとってつければいいようなもんだから、苦になるほどじゃないだろうな。それで部費の分配に対する大義名分が得られるのなら、こっちの精神衛生面的にも好都合だ。まともに頑張っている他の部活動員に対し、多少は後ろめたさを感じることがなくなって良い。 「そんなのあんたたちでやってなさいよ。あたしたちもヒマじゃないの。もう会誌の内容も決めてあるんだから」 どうしてもハルヒは俺たちを潰したいらしい。 「まあ……キミたちが自主的に活動を行うと言うのなら、こちらはそれでも構わん。しかしそれが口からでまかせであった場合、私にも存在しないはずの団を抹消するための手間が生じてしまうのを覚えておくといい。そうだな、一度企画書を作成して明示して貰おうか。今から生徒会室まで来たまえ」 「ヒマじゃないって言ってんの! 無駄な心配してる余裕があるんだったら、あんたがここに書類持ってきなさいよ!」 どう考えても生徒会長の方が多忙を極めているはずであろうが、俺は別に会長の擁護をするわけもなく。 「何を言っているんだ君は。私は文芸部部長を呼んでいるのだ。部外者は口を挟まないでくれたまえ」 と……珍しく喜緑さんが長門に合図し、長門は生徒会長についていく。 「ちょっと、待ちなさいってばっ!」 二つのハリケーンが合流を果たしたかのような勢力で、会長の後姿をハルヒが追う。 おかげで残された俺たちと部室はいやに静かだ。 しかしまあ会長。企画書なんぞ出さなくたって、あの団長殿が言い切ったことが実行に移されるのは確実なんだがな。悲しいくらい否が応にも。 「おや、どうしたのですか? 何か他に用事でも?」 ん? 何故かまだ部室には喜緑さんが残っている。 前回の佐々木団との一悶着の際、病床に伏していた長門の代わりに我らSOS団の宇宙人ポストに入って奮闘してくれたので多少の親睦はあるが、 「すみません。実は、お話しておきたいことがあるんです」 身の上話でもするのだろうか? 喜緑さんが部室に取り残された朝比奈さん、古泉、俺に対して言い放つ。 「まずは長門さんの能力が弱体化している件についてなんですが、それは彼女と思念体との接続が弱まってきているためだと考えられます」 ――長門が自分でも制限をかけちゃいるが。 「ほう。しかし何故、長門さんと思念体との接続状況が芳しくないのですか?」 こういう説明を受けている時なんかの古泉の返答は助かるな。 喜緑さんは続けて、 「はい。実は、わたしたちのようなインターフェイスには上の方から一つ禁令が下されているのですが、その禁令に長門さんが少しずつ触れてきているがゆえに、思念体から敬遠されているみたいなんです」 どんな禁令を……ん? そういえば以前に長門から聞いた記憶がある。 「確か、死にたくなっちゃいけないってやつでしたっけ」 そのまま俺は疑問も口に出す。 「長門がですか? 俺にはそんな風には……むしろ、生き生きしてきたように感じますが」 そうだ。長門の鉱石の様だった瞳にも、だんだんと血が巡り出してきたかのような、柔らかさと温かみが度々見受けられるようになってきていた。春休みの映画撮影(予告編のみ)の最中なんか、長門的には最高にハッチャケていたような様だったぜ。死にたいなんて、そりゃ相反してる。 「死にたい、ですか。それはまたどういうお話なのでしょうか?」 確か、アポだかネクロだか、自殺因子って単語もあったかな。 「ふむ……PCD、のように聞き受けられますね」 「古泉。いったい何だ? それは」 「例えば生物の進化の過程において、あらかじめ死が決定された細胞のことです。オタマジャクシの尻尾が、カエルへと変態する際に失われるといったような。その例のようにPCDはむしろポジティブな細胞の消失ですし、これが行われなければ僕たちにも手指などのパーツが形作られません。これをアポトーシスと言います。このように細胞の自殺が計画的に行われる、それがプログラム細胞死なのです。他にもネクローシスという、」 よし解らん。次へ行ってくれたまえ。 喜緑さんが古泉の言葉を受けてコクリと頷き、 「わたしたちインターフェイスは人類と同じ物質で構成されています。我々が死ぬような事態は殆どないのですが、有機的な活動を行う過程によって死の概念が組み上げられてしまうといったことなどが憂慮されます。思念体は元より死の概念を持ち合わせていないので、わたしたちによって情報構成に自殺因子が紛れ込む可能性をひどく嫌っているんです。恐らく、良い変化は期待されませんので」 ニコリと笑って、 「ゆえに、わたしたちは死を思うことを禁じられています」 うん。長門の話もたしかそんな感じだった。 「なるほど。情報統合思念体は群体のような性質を持っていると思うのですが、多細胞生物に見られるPCDにも一応の懸念を発起させている訳ですね」 「そんなところです」 喜緑さんは続けて、 「あと、先日の長門さんの不調は病気などではありません。おそらく、上の方と何かトラブルがあったのだと思います」 まあ、原因が周防九曜じゃないならそんなところだろう。俺は得心したように頷いて、 「して、そう思う理由は?」 と質問した。喜緑さんは微笑を消し、 「……あの日以降、長門さんと思念体との接続が異常なほど軽薄なものとなっているからです。なので、今の長門さんには殆ど力の行使が認められていません。皆さん、どうか長門さんをよろしくお願いします」 無論だね。むしろ注文を受ける前から走り出してる程に気をつけてるさ。 「ありがとうございました、喜緑さん」 俺の言葉を最後に、喜緑さんはぺこりと退室の礼を尽くし部屋を退出した。 そして閉められた扉は程なくしてドバン!と破裂音を上げ、 「おっまたせー! 勢いで計画進めてたら、こんななっちゃった! まぁ、善は急げ!美味しいものははやく食え! ってことでいいわよね! 明日の団活からさっそく原稿の執筆に取りかかるから、みんな楽しみにしてなさい!」 そう声高々と宣言するハルヒの後には長門の姿があり、ハルヒが右手で俺たちへと提示する紙には、 『企画内容:詩集。上稿予定:今週中』 というデススペルだけが書きなぐられていた。 俺には、最早それが死神との契約書にしか見えていなかった。 そんなこんなでやっと次の日になったかと思やぁハルヒは、休み時間が来るたびに何やらハサミで紙をショッキリショッキリいわせていた。 一体お前は何やってんだと聞けば、 「ひみつ! 放課後まで待ってなさいっ!」 と、ニカリとした笑みを作りながら溌剌と意気の良い返事をするばかりだった。 恐らくハルヒは俺の妹のようにハサミを装備することで破壊衝動を満たす化身へと変貌しているわけでなく、なんらかの創作活動に勤しんでいるのだろうから、折角だし作品の完成まで楽しみにしておくか、と俺は自分の席にいるときも心して後のハルヒへ目をやらずにいた。 そうなると俺はこれといってやることもないので、隣の窓越しに広がる過剰に陽気の良い春模様の空を見やり、その余った陽射しを我が身に受けて体内に貯蓄し、無駄に消えゆくエネルギーを減らそうといった仕事に献身していた。 ああ、春ってのはなんでこんなにも素晴らしいのだろうね。爛漫。 そして放課後、文芸部室にて。 朝比奈さんは俺たちにお茶を配膳する業務を終え、既に部室の風景と化していた。長門は最初から風景だった。 部室なら長門に何事もなかろうと、俺はいまだ姿を見せぬハルヒを待つ事もなしに古泉とヘブンオアヘルという創作トランプゲームに興じていた。 どんなゲームかと言えば、最初から片方がジョーカーとエースを手に持ち、相手をかどわかしながら選ばせるといったもので、つまり二人で行うババ抜きの最終決戦だけを抽出しただけである。これは経験によって無駄を省かれた。 しかし、単純なゲームをいかに楽しく行うかというテーマに沿って繰り広げられる熾烈な心理戦も、単純作業の繰り返しには飽きが来るという人間の心理の前には立つこと敵わず、また古泉も俺に敵わず(逆にやり込められている感がないとも言いがたいが)いつの間にか俺たちのやっていることはカードを弄びながらの雑談へと変わっていた。 「しっかしハルヒの奴、何でまた詩なんかに興味を惹かれたんだろうな。俺たちが詩なんか嗜んだ所で、痛い目と身悶えするような駄文を見るだけだろうに」 古泉はカードを四隅の一点だけで倒立させようと試みながら、 「そうでしょうか。感性多感な時分の僕たちの心模様を紙へと投影してみることは、未来の自分がそれを見た際に、その時代の感傷を想起さし得る貴重な宝物になるのではないかと」 「どうだか。次の朝にでも目が覚めたら、貴重な資源をゴミに変えてしまったってのに気がつくだろうぜ。その後に色んな意味で後悔するだけさ」 実体験ですか?という古泉からの質問に対し、俺は見聞きした深夜のラブレター作成理論の応用だと答えておいた。 「それはさておき、今回涼宮さんが機関誌の内容に詩集という形を取ったのも、受験生の朝比奈さんや僕たちへのちょっとした配慮なのかも知れませんね。詩なら、文量が少なくて済みますから」 「それこそ問題だ。少ない文字で成り立たせにゃならんから、構想に余計時間がかかる。それにどんな詩を書くのかも考えにゃならんから、よほど手間だ」 ズバン! 「待たせたわねっ! みんなは一秒が千秋に感じる程に待ちわびていたことだと思うわ! 今回も時間がないから、みんなの詩のテーマはコレで決めちゃいましょうっ!」 心臓を打ち抜くような音を鳴らしてハルヒが扉を押し開いてきた。 驚きの眼を配る朝比奈さんとハルヒの途方もない思い違いに呆気に取られている俺に、ハルヒは何やら励んでいた創作活動の賜物と思われる物体を、左手で作ったOKサインのOを示す指に挟んで見せびらかしていた。 「サイコロ、ですか?」 多分古泉の質問はその通りの答えだろう。 俺にも、それは三角形の紙を八枚セロハンテープで繋ぎ合わせて作られたフローライトナチュラル八面体に見える。 「そっ。特にキョンなんか書き始めるまでにも時間かかりそうだから、今回も内容はアトランダムに決めるわっ! キョン。雑用でしかないあんたのために労を負った団長様に感謝しなさいよね!」 先程の俺の言葉を見れば感謝すべきであろうが、アトランダムの偶然性に対し不満があったので「すまんな」という謝辞にて言葉を終了した。 ハルヒはフッフンと得意げに天井へと高々にサイコロを掲げ、 「それぞれの面にお題が書いてあるから、これをホイコロリンッって投げて出たヤツを詩の内容にすること! 異議があるなら言いながら投げるといいわよ。そして忘れちゃいなさいっ!」 俺には言い捨てる言葉もないが、 「しかしまた何でサイコロなんだ? わざわざ紙を切ってゴミを増やさずとも(そして作らずとも)、前みたいにくじ引きかアミダで決めりゃ良かったじゃないか」 という小さな疑問を投げかけた。 それを聞いたハルヒはチッチッっと右手の人差し指をメトロノームにしながら、 「それじゃバラエティに貧するってものよ! SOS団たるもの、些事の決め方にも広く手をのばしていかなきゃ! そして、ゆくゆくは世界の森羅万象を掴み取るのよっ!」 グッと決めポーズ。ハルヒは今日も絶好調なようである。ま、絶不調でなくて何よりだろうね。世界の平和的に。 だが、恐らくこのネタは外部から、というかテレビから受信して閃いただけだろう。 と、俺は手元に落とされた八面体ダイスを見ながらそう推察してみた。 何故かと言えば、サイコロのやっつの面に書かれているワードはそれぞれ 『私の詩』『未来予想図』『恋の詩』『本音の詩』 『元気が出る詩』『褒められた詩』『失敗した詩』 とあり、後半のテーマが若干日本語として妙なのはハルヒに国語力がないからではなく、お昼の某テレビ番組で転がされているサイコロに書かれた『~話』をそのまま詩という言葉に変換したせいだと思われるからだ。 「じゃっ、順番は団への貢献度が多い人からね! 序列は大事よ! 大きな組織の中では特にねっ!」 じゃ俺からでいいだろ。 「なんでよ? はいっ! 最初は副団長からっ」 SOS団は小規模だから、と説く前に、ハルヒはひょいと俺の手からサイコロをつまみ取り、流れるような動きでそれを古泉副団長へと手渡した。 古泉は卵をのせるような手の平の中でそれを弄び、 「さて、なにがでるかな?」 合唱しようと思ったが、古泉が出す目は大体の予想が立つし、多分予想通りである。 スマイル仮面の古泉のテーマは多くて二択であり、およそ『私』か『本音』だと、 「……おやっ?」 俺と古泉が思わず言葉を漏らす。 「褒められた詩、ですか。僕が以前に書いたポエムの傑作を載せるということでしょうか?」 書いてる姿も含めてそれも見てみたい。が……何だ? 確率論が復活したのか? 本来ならおかしくはないはずなのに俺が妙に思っていると、 「ちがうちがうっ。褒められたときの気持ちやらをポエムにするのよ」 俺にとって古泉のそれは不愉快なポエムになるなと思っていたら、ハルヒは続けざまに、 「でも、振り直しっ。それは国木田が書くから」 国木田? 「そうよ。名誉顧問と準団員には既に振ってもらって、『元気』『褒め』『失敗』は決まってるから」 ハルヒはくるリとメンバーを見回し、 「みんなもカブっちゃったらもう一回! 同じことやっても良いものは生まれないし、SOS団はバラエティに富んでないといけないって言ったでしょ!」 それよりも近い過去に序列がどうのと言ってた気がするが、それは覚えていないらしい。 「って、じゃあ俺はサイコロの振りようもないだろうが。全員が振った後じゃ、必然的に残りの一つに決まっちまうだろ?」 「いいじゃん。特に変わらないわ」 実際問題どうでもよかったし、例え同じサイコロを八つ同時に八人が投げたところで結果は変わらないであろうから、俺はそこで閉口した。 そして古泉は『本音』を出し、次いで長門が『私』、朝比奈さんが『未来予想図』、ここで俺は再度口を開いて抗議の旨を団長、いや編集長へと必死に訴えたが、ハルヒはガイウス・ユリウス・カエサルがルビゴン川を渡った際に言い放ったのと同じ言葉で俺の訴状をねじ伏せた。 ――そしてまた次の日の放課後。現在に至る。 目の前のハルヒが何故こんなにも不機嫌なのかと言えば、 「ちょっとみんな! あの三人はすぐ詩を完成させて持って来たってのに、何でみんなはちーっとも筆が進んでないのよ!」 ハルヒが代わりに言ってくれた。その理由を申せと仰るのであれば、説明するまでもなく「そりゃそうだ」の一言に尽きる。 鶴屋さんは『元気』、国木田は『褒められた』、谷口は『失敗』の詩を書いており、言葉そのままでも違和感のない程にそれぞれピッタリはまった題目だ。 一夜で詩が書けた理由としては、各自それのネタなんていくらでもあるだろうし、万能である鶴屋さんの才の一つに詩的才能が含まれている予測は疑いようもなく、国木田と谷口なんかは適当に済ませたのだろう。 重ねて俺たちときたら、古泉と朝比奈さんのテーマはまるで名探偵にズバリズバリとトリックを言い当てられて言葉を失った犯人のようにアワワとしか言いようがなくなってしまうようなものであるし、『私』の長門なんか前回の小説で自分のことであろう作品を書いているので、俺と共に前回とお題がモロかぶりである。 言うまでもないとは思うが、俺は『恋』のネタである。 もう、そんなもん俺の在庫には最初っからないんだし、長らく入荷待ちの札が掛かってるだけだっつーのに。 それらの理由により、俺はもう一度ハルヒに儚い希望を提訴してみた。 「ハルヒ。じゃあ皆のテーマを変えてくれないか? 俺だって恋なんてもんは幼い頃、従姉妹に一方的に苦い思いをしただけだし、それ以来そういった甘そうなのは味わったためしがないんだ。だから俺の中にあるそんなネタは、前回の小説が最後っ屁でもうグウの音も出ん。終了だ」 却下。という二文字の一言が虚しく飛んでくると思っていたが、 「そうなのですか? むしろ味を感じないのは、あなたにとってそれが空気みたいな物だからなのでは?」 予想に反し、助け舟を渡してやった筈なのにそれを撃沈させるかのような言葉が古泉から飛んできた。 「うん? どういう意味だそれは」 特売アイドルみたいなスタイルのお前と違って、俺にはそんなに身の回りに溢れているもんじゃないんだよ。それにそんなことを言われるとな古泉。俺だって……泣くんだぞ。 「いえいえ、そうではないですよ」 若干苦味を持たせたスマイルで、 「あなたにとって必要不可欠であるにも関わらず、身近に存在しすぎてあなたが気付いていないだけ。ということです」 ほう。そいつは嬉しいじゃないか。つまり、俺に想いを寄せているがそれを伝えられずにいるうら若き乙女の視線が、恋の矢の如く俺の後頭部に突き刺さっているのが古泉には見えるってわけだな。 何だか涙が別の理由で出てきそうだと思っていると、 「古泉くん。それどういうこと? 団長に報告もなしに男女交際をしている輩がいるっていう告発?」 そう古泉に話しかけながらも、ハルヒの視線はまるっきり俺の方へと向いている。 そんな目をされても俺はなにも知らん。 「そうではありません」 今日が、古泉にとって初めてハルヒにノーと言えた記念日となった。 「僕はただ、恋とは意識して感じ取れるものではなく、無意識の内に自分が恋に落ちていたという事実を自らが認識した際に知り得るものだ、という考えを述べたまでですので、他意はありません。ご安心を」 「ああ、なるほどね。それはあたしと似たような捉え方だから良くわかるわ」 うん? お前、恋愛は精神疾患だとか言ってなかったか? 「もちろん。風邪と同じでかかりたいと思ったときにはかからないし、忘れてる頃にはいつの間にやら患っているものってことよ。まさに病気じゃない。あたしは抗体持ってるから絶対かかんないけどね」 蝶がヒラヒラと舞い寄ってくるような古泉の思想が、ハルヒの例えによって一気に消毒液臭くなった。 俺は飛び去った蝶の採集を試みるように、 「じゃあハルヒ。抗体持ってるってんなら、以前に恋患いの経験があるんだな?」 「あるわよ」 「へっ?」 っと、俺がハルヒから思わぬクロスカウンターを喰らって目を丸くしていると、 「はしかやオタフク風邪と一緒よ。ちっちゃい頃に感染しとくべきなの。それは」 ……やれやれ。まったく、現実的なものにはどこまでも夢のない奴だな。非現実に見せる積極性をピコグラム単位でも振り分けてみたらどうかと提案するね。それだけでも、お前には男共がわんさと群がってくることだろうぜ。黙ってりゃあもっと良い。 「ド馬鹿キョン! つまんない奴らがいくら集まっても、あたしの欲求は埋めらんないのっ!」 壊れたミニカーのようにキーキー言っていたハルヒは、俺に近づいてきて急に止まったかと思えば、俺の心臓あたりをスイッチを押すようにしつつ不敵な笑みを浮かべ、 「だからね! あたしが集めて作ったSOS団は、みーんな粒ぞろいの精鋭なのっ! 全員一緒なら意図せずとも世界は盛り上がっちゃうって寸法よ! わかるわねっ!」 「……ああ、よく分かってるさ。もちろんだ」 ――そうだとも。佐々木の閉鎖空間をめちゃくちゃにしたあいつらなんかとは、SOS団は全く存在を異にする。 俺たちだってそれぞれ形は違っちゃいるが、いつの間にかそれはパズルのようにガッチリ組みあがって、今では全員で一つのものになっていたんだ。前回の事件で、俺たちはそれを身にしみて感じる事が出来たのさ。 ――そして、その中心にいるのは……ハルヒ。いつだってお前なんだ。 「なにアホヅラかましてんの! そんな暇あったらとっとと書きなさい! ちなみにテーマ変えはなしっ!」 それは変えて欲しかったが、俺はもうハルヒに抗弁をたれるまでには至らなかった。 ハルヒは憤怒しているように見えたが……その表情はまさに、楽しくて堪らないともの語っていたからな。 しかしいつまで経っても団員の誰一人としてポエムを完成させることはなく、修練の結果は翌日に現れるといったハルヒ理論により、詩の作成は宿題という形で団員に背負わされ、俺たちは普段よりも重い足取りながら、いつもの並びで帰路についていた。 「もしかしたら涼宮さんは、己の能力と僕たちの正体に気付いているかも知れません」 何の脈絡もなしに世界が終焉を迎えそうなことを言い放っているのは、もちろん古泉である。 「そりゃまた、えらく段階を踏まない話だな。なぜそう思う?」 ハルヒと朝比奈さんが先頭、次いでハードカバーを読みふけりながら歩く長門、そして最後尾の俺と古泉。 古泉は部室からずっと手に持っていた物を俺に見せるように掲げ、 「……これですよ」 「って、ハルヒが作った只のサイコロじゃないか」 テーマ決めの際に使用された八面体の紙製サイコロだった。 ちなみに、このサイコロ君は生まれて間もなく存在意義を失ってしまった可哀相な奴である。 というより、また使われるようなことがあっては堪らんので、俺としてはいち早く鉄のゆりかごの中で眠って頂き未来人に起こされる日を待って頂きたい次第である。……そういえば、タイムカプセルって自分たちで掘り起こすもんだったよな? 「その話はまた別の機会にしましょう」 古泉の提案を拒む理由は皆目なかったので、俺は話を聞く態勢に入った。 「何故、今回のテーマを涼宮さんがこのような物で抽選したと思います?」 「そりゃあおそらく、学食でテレビでも見ててネタを頂戴したんだろ」 ふむ、っと古泉は視線のみを数瞬だけ横に流して、 「たとえば、涼宮さん自身がクジの偶然性に疑問を持っていたとします。そして無意識の内に、確率を確認するのにはこの上なく最適であるサイコロという手段を取ったのであれば……涼宮さんは表層の意識に限りなく近い所で、己の能力の存在について勘付いているという可能性が示唆されます」 それを聞いた俺は「へえ、」と一呼吸おいて、 「考えすぎじゃないか? あと、お前たちの正体に気が付いてるという予測は何処から立つんだ?」 ほのかに微笑んだ古泉は手に持っていたサイコロを俺に渡し、俺がそれをつぶさに眺めていると、 「これに書かれているテーマですよ。偶然にしては……余りに、僕らが有する要素に対して的を射すぎている。なので涼宮さんは僕たちの正体を心の何処かで知っていて、これによって確証を得たいのかも知れません。これも多分、無意識の内の行動でしょうがね」 はん。年がら年中どこまでも特殊な存在と一緒に過ごしてたら、だれだって少しはそう思うだろうぜ。 「それも深読みし過ぎだろう。サイコロのネタだって、提供元はシャミセンの親類が経営する洗剤会社に違いない」 この言葉に古泉はいつものスマイルを取り戻し、 「そうですね。それに僕たちが一発で各自のテーマを当てなかった理由は、むしろ涼宮さんは自分にそんな能力があるということを否定したいからなのでしょうし、ひょっとしたら、単純に涼宮さんの力が弱まっているだけなのかもしれませんしね」 ん? ちょっと待て。一つだけ合点がいかない。 「……俺のテーマが『恋』になった理由は何だ?」 「それは本当は朝比奈さんが未来人であるように、あなたも本当は恋を」 「なあ古泉。だいたい生徒会長は何でまたこんな時期に文芸活動を要求してきたんだ? まあ当初の要求は文芸部的なんてのじゃてんでなかったが。機関が関係してるのか?」 「それなんですが」 と古泉はスマイルのレベルを最小にまで下げ、 「これは僕らの手回しによるものではありません。会長なりに考えてみた結果なのかも知れませんが、若干、あの人に生徒会長の仮面が定着し過ぎている感が否めませんね。いえ、もしかしたら、喜緑さんの手によるものだったというのも考えられます」 「ほう。まあそれなら重要だったよな。長門に何かがあったのは分かってたのに、俺たちはその何かまでは知らなかったわけだし」 古泉はフフフと不気味に笑い、 「それなんですが、僕にはおおよその見当が付いています」 一体それはなん、まで俺が言葉を出したときだった。 ゴスンッ! ――今の音は長門の頭から出たのか電柱から出たのか、一体どっちだ!? ……なんて、不毛な論議に変換している場合じゃない。 「ちょっと有希っ! あたま大丈夫!?」 ハルヒは長門がアッパラパーになっていないか心配しているのではなく、本を読みながら電信柱に頭部を強打した長門を案じながら、怪我の有無を確認している。 そして古泉と俺は長門が電柱にケンカを吹っかけた光景を目撃して目を丸くし、朝比奈さんはわたわたと長門に気遣いの言葉を途切れとぎれでかけていた。 「心配しなくていい、平気」 いやゴッツンコした所が小高い山を作って、まだ春だってのに紅葉を迎えてるぞ? 「大丈夫か?」 駆け寄る俺に、 「ありがとう。……みんなも」 たんこぶを抑えるのをガマンしている様に見える長門が答えた。 「でも、珍しいわね。有希が物にぶつかるだなんて。そういえば……見た覚えがないわ。いつも本読みながら歩いてるってのに」 「別のことでも考えてて、そっちに気がいってたんじゃないか? 詩とかポエムとか……ポエムを」 「そ、そうなのかな……」 俺のギャグにハルヒは悩ましい顔を作ってしまったので、 「すまん冗談だ。多分、まだ調子が戻ってなくてフラついたんだろ。長門も読書は中断してハルヒたちと歩くといい」 「…………」 沈黙する長門をハルヒと朝比奈さんに任せ、俺は古泉の話の続きを聞くために後列へと戻った。 「長門さんに怪我はありませんでしたか?」 「ん、おでこがプックリだが心配なさそうだ」 「そうでしたか」 そう話す古泉は、どこか嬉しそうな面持ちである。 「なにか良いことあったか」 ムッとした俺が硬質な感触のする言葉を作ると、 「……むしろ現在、機関はある懸念を抱えて悶然としています。ですが、確かに最近の長門さんの変化については喜ばしいことのように思いますね」 「弱っている長門が良いってのか?」 それでは語弊がありますね、と古泉は微笑をたたえ、 「近頃、というか先程の長門さんもそうなのですが……とても人間味を感じませんか? TFEI端末として弱体化してきているというのは、ちょっとずつ長門さんが人間に近づいていきるという側面があると思うのです。それはあなたにとって嬉しいことでしょう? もちろん、僕にとってもね」 俺を目で落としてどうするんだと言わんばかりの温和な視線で、古泉はふわりと柔和な笑顔を作った。 「……そうかもな。俺にとって、そりゃもちろん嬉しいことだ。それに俺たちだけじゃない。ハルヒに、朝比奈さんに、そして何より……長門自身にとってな」 そう。長門にむける心配は、そろそろ見方を変えなけりゃならんのかもしれん。 力を失っていく宇宙人に対するそれから、細腕で柔弱な少女への気配りへと。 「ところで、お前が抱えてる懸念ってのは一体なんなんだ? 俺以外に話せる奴なんていないだろうし、話してみるだけでも多少違うんじゃないか?」 俺の言葉に古泉はどんな表情を出して良いのか解らないといった顔つきになり、 「……そうですね。話しておいた方が良いかも知れません。あなたには」 「なんだ?」 俺の目を見て、 「程ない以前、閉鎖空間と《神人》が久しぶりに乱発された時期がありましたよね?」 「ああ、佐々木とハルヒが出会った日以降だったっけ。お前でも疲労の色が隠せてなかったよな」 「それなんですが、閉鎖空間の発生は二週間ほど前……特定すれば土曜日にまるっきり沈静化しました」 土曜日? ――ああ、俺が佐々木たちと会合した前日か。だが、 「良かったじゃないか。この言葉以外に何がある?」 古泉は全然良くないことを話すような顔で、 「それが、不可解な点がいくつかあるのですよ」 「一体どこにあると言うんだ?」 「まず、何故に突然閉鎖空間の発生が沈黙したのか。機関の諜報部をもってしても原因が判明しません。そして他に……これは閉鎖空間内で《神人》の討伐を担う役割の僕や仲間たちしか感じないのですが……」 古泉は前方で談笑しているハルヒを一瞥し、 「閉鎖空間は世界中の何処にも発生していないにも関わらず、僕たちにはそれが存在しているという確信が、沈静化した直後から心の隅の方で、こうしている今でもくすぶり続けているのです。……それによって一つの推測が立つのですが、これは多分、あなたは聞きたくもない話です」 「聞きたくないかは俺が判断する。さわりだけ言ってくれ」 古泉は眼に真剣をやつし、神妙な雰囲気でこう言った。 「――涼宮さんが、まさに神と呼ぶに相応しくなったのではないか? という内容です」 「そうか。そりゃ全くもって聞くだけ無意味な話だな」 ハルヒが神だって? あいつはいつだって奇想天外な行動を起こしちゃいるが、根っこの方は特に変わりのない普通の女の子じゃないか。お前だって良く知ってるはずだろ。そんなの、考えるだけバカらしいってもんだ。 「ええ、全くです。仮にこの推論が当たっていたとしても、何が起こるのか皆目見当が付かない故に対処の方法も思い浮かびません。なので案じたところでどうにもなりませんし、ただの杞憂であればなお良いだけです。すみません、あなたはこの話を忘れて下さい。それに僕も――」 古泉は、長門の後ろ姿を温もりさえ感じる視線で見つめながら、 「……いかなる憂いすら、今の彼女を見ていると消し飛んでしまいますよ」 そうだな。俺たちが憂うべきものは、今のところ帰ってからどうやったらポエムを書かないで済むか考えることだけだろうぜ。 「……まあ、そうですね」 古泉はまた思案顔を作り、悩ましげに顎を支えていた。これはこいつの癖になっちまったのかね? 「無駄な心配はしないに限るぞ。時間と神経を無為に減らすだけだ」 いつもより元気はないが、それでも十分爽やかなスマイルで、 「……そうすることにしましょう。まあ、詩は頑張って執筆してみますがね」 「ああ。やっぱり俺もお前にならって机の前で頑張ってみるかね。思えば、書かないで済むかなんて思案することだって無駄なんだしな」 「ふふ。お互い頑張りましょう」 そうやって、その日俺たちはそれぞれ自分の家へと足を辿り着かせた。 ……さて、無から有を創造するある意味で神的な作業に入るとするか。 ――俺はこのとき、この平穏は当分の間続くものだと信じていた。 SOS団は今までにない程まとまっていたし、ハルヒと長門が落ち着いてきているのは良い変化だと疑わなかったからだ。 だが、それは違った。それらの吉兆は、裏を返せば……最悪な事態が引き起こされる前兆でもあったんだ――。 第一章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2500.html
俺は最近よく夢を見る。 普通、夢ってのは起き立てのころははっきり覚えていて、いい夢ならずっと覚えていよう、悪い夢なら すぐに忘れようと思ってしまうわけだが、いい夢だろうがなんだろうが、基本的に数時間経つとアウトライン すらはっきりせず、一日も経ると夢を見たことすら忘れてしまう。 でも、最近俺が見る夢は違うんだ。 ずっと覚えている。何故か。 内容は俺にも良くわからない。 ただ、目の前に焦土と化した大地があるだけの夢。 歩いて何処かにいくわけでもなく、かといって何かを考えるわけでもなく、 ただ、焦土と化した大地を眺めているだけの夢。 そこには俺以外の誰も介在しない。 ただ、俺と赤茶げた大地だけが在る夢。 唯一聴覚のみ開け、耳は悲しげな歌を拾う。 どんな歌かは判らないが、心の底から震えてしまうほど悲しげな歌が流れる夢。 夢は必ず覚めるもの。 だが、その夢だけは、何処か現実的で、覚める気配が全くしそうに無い夢。 ・・・とはいいつつも、やはり夢なので覚める。 奇妙な虚脱感に襲われながら。 まぁ、変な夢を見ようが世界はいまだハルヒ中心に回りやがる、そんな日々。 Sing in Silence ~涼宮ハルヒの融合~ 気がつけば2年生になってしまっていた究極凡人にして、 名前はあるが誰も本名で呼んでくれない悲しき高校生こと俺、キョンである。 SOS団なる恐らくこの都市、いやこの世界一奇妙かとも思われる学校非公認団体は、 某超能力者団体の息がかかる「自称」悪の生徒会会長からの圧力を受けたり、 SOS団並に奇妙な団体から事実上の宣戦布告をされたりしながらも、結成二年目に入ろうとしている。 俺やハルヒを含めて皆この一年で色々と変わった。多分最も変わったのは俺だろうが、誰も褒めてくれなどはしない。 まぁ、褒めてくれたところでどうなるわけでもないけどな。 残念ながら、この学び舎は一年の間に変化を遂げることは出来なかった。 来るべき夏に備えてクーラーを取り付ける気配も無ければ、誰かが扇風機を持ってくるような気配も無い。 そして、俺の後ろの席がハルヒ以外の誰かになることも、この一年の間遂に無かった。 ハルヒのトンデモ能力の所為なんだろうが、迷惑極まりないぜ。 そんな人に迷惑をかけることだけを考える生命体こと涼宮ハルヒは、俺の後ろの席でなにやら鼻歌を歌いながらノートに書きなぐっている。 授業中なら教師からの叱責等が必要になってくるだろうが、放課後なので特に俺も気にしない。いつもの事だしな。 「何描いてるんだ?ハルヒ」 なにやらどこぞの前衛ファッションデザイナーが書くような、一歩間違えばセクハラ、いや猥褻物陳列罪で検挙されてもおかしくないようなデザインの服を書きなぐっていた。 いやはや、絵心だけは人一倍、いや二倍はあるようだな。 「ナース服やメイド服とかだけじゃ飽き飽きしない?結成二年目に入ったことだし、みくるちゃんにはあたしプレゼンツな服でも着せようかな、と思ってさ」 やめとけ。そんなもの着せて朝比奈さんをうろつかせて見ろ。退学どころの話じゃなくなる。全国紙沙汰になるぜ。 「そりゃそうだけどさぁ・・・」 一年でちょっとは良識を持ったかに思われたハルヒだが、俺の見当違いだったみたいだな。 ハルヒはハルヒだ。まぁいざとなったら俺と長門と古泉でとめてやるから、好きにしてろ。 「ねえキョン」 何だ。 「あんた、何か願いってある?」 「何だ唐突に」 「あんたみたいな凡人だって、願いのひとつやふたつあるでしょ?」 ハルヒがこのまま何もやらかさず、まっとうに人生を送ってくれればそれでいいんだが、んな事言えるはずも無く 「・・・金塊、いや最もキロ単価の高いレアメタル塊でもいい。そんなのが家の庭から見つかれば良いな、とかなら」 「そんなの掘れば出てくるでしょ。もっとデッカイ願いを持ちなさい、デッカイのを!」 掘っても出てこないから言ってるんだろうが。そもそもデッカイ願いってなんだよ。 「そうね。反地球が実際に現れるとか、火星に突如として文明が興るとか・・・」 やめてくれ。宇宙戦争に発展しかねん。 「何よ。自分ひとりの事しか考えられないようなヤツに言われたくはないわ」 へいへい。 「まぁ、実際に現れたら現れたで困っちゃうだろうとは思うけどね」 「だな。だから、そういうのは『願い』じゃなくてあくまで『妄想』として片付けておくことをお勧めするぜ」 「あんたも人のこと言えないわよ」 違いないな。 「ともかく、あたしはみくるちゃんの衣装デザインに専念するから、あんたは先に部室にでも行ってなさい」 「了解した」 と生返事を返しつつも、俺は先刻のカバンおよび机の中身の大掃除によって生まれた不要不急書類(といっても小テスト類だが)の整理作業が残っていた。 ゴミ箱に突っ込むわけにも行かないので、簡単に整理することにした。 俺は小テストの結果を見返しながらため息を漏らし、後ろでハルヒはStratovariusのPapillonボーイソプラノパートを 口ずさみながらノリノリでカキカキしている。少しはその元気を俺に分けて欲しいもんだが。 気配だけだと、小学校にも上がらないくらいのガキがクレヨンでキャラクターを書きなぐっているような感じだ。 中身はガキ同然というか、体は大人、頭脳も大人、ただ精神構造のみ子供な迷団長様、絵を描くならもうちょっと静かに 描いてくださいませんか?とか脳内で文句を言いつつも、不要不急書類の分別に徹していた俺。 唐突にシャーペンの音と歌声が消えたが、まあ飽きたんだろうと思いつつしばらく作業を続けていたが、 それにしても物音がしなさ過ぎる。 まさかと思って後ろを振り向いた。 ハルヒが居なかった。 広げてあったであろうノートや筆記用具類、果てはカバンまで無く、その状態からもう部室にいっちまったのかと思ったが、 あのやかましい女が物音ひとつ立てずに俺の後ろから消え去る、なんてことがあるだろうか、としばらく思案をめぐらすも、 まあたまにはあるだろう。ひとまずそういうことにしておいた。 と言うわけで俺も早々に机のものを片付けて、いつもの様に部室棟へと行き、 いつもの様に部室のドアをノックしたわけだが、返事は無い。 あの可憐な上級生はいらっしゃらないのか?と思いつつ下着姿の朝比奈さんを拝めたらいいなぁとかも思いながら ゆっくりとドアを開けると 「まっていた」 俺が人の気配に気がつく前に、冷涼とした声が俺の耳に届いた。 長門だ。ハルヒは居ない。帰りやがったのか? ともかく、長門が自分から話しかけて来るなんて珍しい。何か問題が発生したんだろうとは思うが。もう慣れたぜ。 「どうした?またハルヒが何かやらかそうとしてんのか?」 窓際のパイプ椅子に腰掛けていた長門は、読んでいた分厚いハードカバー本をパタンと閉じ 「この時間平面上の情報が一部欠損、もしくは完全に置き換わっている。涼宮ハルヒ、朝比奈みくるがこの時間平面上から消失した。原因は不明」 えらくとんでもない事言ってくれるじゃないか。 「どういうことだ?」 カバンをひとまず机の上に投げ捨て、長門の前に行こうとする・・・が、なんだか様子がおかしい。 目の前に居て、実際に俺と話もしているのに『存在感』が一切無いんだ。 ・・・おまけに半透明だ。 「不明。私のエラーに起因する問題でないことだけは確か。それ以外は不明。私自身の存在確率維持も危うい状態。あなただけが頼り」 心なしか悲しそうな色を目に浮かべながら 「お前も消えちまうのか?」 「もうじき消える。全インターフェースおよび情報統合思念体とのコンタクトが不能―――――今すぐ、鶴屋家へ。鍵が見つかる――」 「長門っ!!」 あっという間だった。長門の声に一瞬ノイズ入ったかと思うと、次の瞬間音も無く長門は微粒子に帰した。 まるで雪が待っているように、長門を構成していたであろう微粒子が空間を漂っていたが、俺が放心している間に、いつの間にか消えちまった。 鶴屋家・・・って鶴屋さんの家だよな?鍵って何だよ。 だが、長門が行けっていうのだから、行くほかあるまい。 とにかく急ぐべし。何故か校門前に止まっていたガチホモマッガーレ印の 黒塗りタクシーに飛び乗って鶴屋家の前にやってきた。 恩に着るぜ古泉。 だが、ここからどうすればいいんだろうか。例によって入ろうにも門戸は硬く閉ざされているし、 インターホンを押すのも憚られる。だって、鶴屋家に来た理由が理由だからな。 話のわかる相手がインターホンに出てくれるとは限らないし。 うーん。この重いかんぬきのかかる門が自動ドアなら良いのにとか思っていたら、 ギィ、と音を立てて開いた。 鶴屋さんの話だと、インターホンだけじゃなくて監視カメラもついてるらしいから、 俺が門の前でうろちょろしてるのみて怪しまれたか。それとも鶴屋さんが助け舟を出 してくれたか。 「どうぞお入りください」 少なくとも、両方違ったようだ。おそらく鶴屋家の使用人か何かであろう女性が が開いた門から出てきた。 こちらの用件など聞かずに付いてくるよう促した女性に、ひとまず付いて行く事にし た俺は、例によって広い庭を抜け、これまた広い玄関をくぐり、長い廊下を歩き、客 間らしき広い和室へと通された。 意外にも、そこには先客が居た。 鶴屋さん?朝比奈さん?ハルヒか長門?古泉?いや、それら誰とも似つかない、年のこ ろ20中盤と言う感じの男が。 古泉に見習わせたいくらいの全く嫌味の無い笑顔で 「君か。常々話は聞いている。ま、そこに座ってくれると有難い」 と、男は自身の目の前に置かれた座布団を指した。 座ると、俺はまず男を精査すべく、失礼にならない範囲でまじまじと見つめた。 ダークスーツにネクタイ、タイピン。胸ポケットにはサングラスも入っているよう だ。いわゆる「メン・イン・ブラック」のようにも見える。 「さて、最初は世間話でもしてお互いを良く知るのが、初対面同士が打ち解けるきっかけになると 誰かさんは言ったが、悠長にそんなことやるような時間的余裕も心的余裕も無いはずだ。早速本題に入ろう。 まず、君は俺にいくつか聞きたいことがあるはずだ」 早速お見通し、ってヤツか。 まず、何を聞こうか。3人が消えたこと、長門から鶴屋家に行けと指示された理由、それから・・・ 「あなたは誰です?」 俺、いやSOS団の全てを知っている気がする。この男は。違いませんか? 「ご名答。君が、いやSOS団員各々が知りうる全ての情報を知っているつもりだよ、俺は」 宇宙人、未来人、超能力者、別な勢力の宇宙人、別な勢力の未来人、別な勢力の超能 力者と会ってきて、まだ遭遇していないものといえば異世界人だが、大概のことを知っているとなると少々違うものかもしれない。 「私は・・・そうだな。シュルツと名乗っておこう。何、固有名詞ほど往々にして不確かなものは無い。 少なくとも、我々にとってはね。時と場合、場所において使い分けていくものだ ―――と、んなことはまあいい。君は、俺を何だと思ってる? さしずめ異世界人か何かと思ったけど、何か違う、みたいなツラしてるけどさ」 そうだ、その通り。もしかしたらこの人、俺の心でも読んでるのか? 「我々は表情から心を読み取る程度の読心術を身につけてはいるが、流石に人の心を全て見透かすような高度な技を会得しては居ない」 「読んでるじゃないですか」 「まぁ、それくらい誰にだってできる。君だって、ある程度長門君や朝比奈君、そして涼宮君の心中を察することぐらいはできるだろう?」 それは一年間の努力の賜物ってもんだ。 「・・・まぁ、そうだな。ま、こんな話を続けていても不毛だ。そろそろ俺の正体を 明かしておく」 シュルツ氏は使用人さんが用意してくれたお茶を一口くちに含んで一間置くと、 「俺は外宇宙人・・・とでも言おうか」 あの時と同じように、世界は停止したかに思われた。 ずずっ、と氏がお茶をすする音だけが良く響く。 俺は悠長にお茶を啜るほど心に余裕は無かった。 そもそもなんだよ外宇宙人ってのは。まだ異世界人ならわかるような気もするけどな。 「相当困った顔をしてるな。まあ仕方が無い。そもそも、君たちが『観測』すること によって成立しているこの宇宙だが、知性が高度に発達した、この地球に住まう有機 生命体が現在持ちうる観測手段すべてを有効に用いたとしても、外宇宙のことを知る ことはまだ適わない。ま、ある程度観測結果から予測することはできているようだ が、あくまで仮定であり、真実ではない。それ『らしい』ということしかわからないからね。 だから君が俺を理解できるはずはない。なので『外宇宙人という人らしい』という認識 で十分かまわない。 ん?まだ何か知りたいという顔をしているようだな。当たり前だな。 こんなことを言われて『はいそうですか』と話を畳める人間など居よう筈も無いしね」 よく判ってらっしゃる。 「具体的に、外宇宙人、もとい貴方は何者なんです?」 「まあ、先ほど言ったようにあくまで『らしい』ということで十分、ってのは判って くれたとは思うので、以下突拍子も無い話をするが耳かっぽじって良く聞いてくれ」 再びお茶を一口くちに含んで一間置くと、 「俺は、全ての宇宙を統括するアカシックレコードより派遣された、事象管理者の一分子だ」 ・・・なんだって? 「徹底的に平たく言ってしまうと、歴史を変革する手助けをする人々の一人だ」 全然平たく無いぞ、お兄さん。 飛鳥本あたりを愛読してる、超能力宇宙人ユダヤ人の陰謀何でも大好き兄ちゃんなのだろうか。 そういや何かのトンデモ本で見たが、アカシックレコードってのは「過去、未来すべての歴史が記されている”存在”」らしい。 ってことは、長門の親玉よりとんでもない存在らしいから、何でも知ってる。そういうわけか? 「ま、それ『らしい』ってことでいいんだよ。こんな中二病患者的な事いきなり言っても混乱するだけだよな、すまない。真剣に考えなくていい」 液体窒素冷却でもしないと文字通り数秒で吹っ飛んでしまいそうな、超絶オーバークロックを 施したCPUみたいな状態に俺の脳内が達しつつあるってのを知ってか知らずか、 スマイル70%申し訳なさ30%の比率の顔でシュルツ氏は語りかけてくれた。 「つまり、長門やその親玉以上に全知全能の神様みたいなもの、ってことでしょうか?」 「だね。つまるところそうだ。ま、長門君とは違い、我々の処理能力にはある程度足かせがはめられてるがね」 ということは・・・だ。今回のSOS団員の消滅事件についても全て知っている、ということなのでしょうかね? 「ま、大方そういうことだ」 『ま』が多いお方だ。いろんな意味でな。 「俺がここに現れた目的だが、ご想像にお任せする。カンのよさそうな君なら判るだろう」 さしずめ、今まで外界から監視しているだけだったハルヒが、俺以外の団員ごと行方をくらましたからだろう。 「そういうことだ」 大体のことを知ってるのなら、解決する手段も持ち合わせているか、少なくとも解決方法ぐらい知っているんじゃないのか? 「なぜ俺の前に現れたんです?超凡人な俺が介在しなくても、トンデモ能力持ってそうなあなた方なら、消滅事件は解決できるんじゃないんですか?」 「それはだ、事件解決の手段、いやキーの一つを、君が持っているからだ。それを知らせに、俺は君のもとへ現れた」 長門といいこの人といい、皆俺を頼りすぎだ。何処かをうろついてるだろう古泉にもそのキーとやらを持たせてくれたら、俺は俺で大助かりなんだが。 「君はな。宇宙人、未来人、超能力者やその関係者がいるSOS団やそれに関連する人の中で唯一、涼宮君に一番近いうちの一人でありながらどの勢力の影響下にも居ない、貴重な人間なんだ」 ごく平凡な一個人でありたかったけどね。 「でも、ある意味謳歌してるんだろう?この状況を」 確かにね。この一年ちょっとの間に俺は成長した。いや、単に開き直りの境地を超えて、SOS団の純朴なる構成要素のひとつと化すことにある種の快楽を覚え、 脳内麻薬がドバドバとでちまうような、そんなヤバゲな脳になっちまってるのかもしれないが、確かに心底楽しんでるんだよな、俺。 「というわけでだ。君はこれから、己が思うままに行動してくれ」 あのう? 俺って何かキーを持ってるんですよね。なら、そのキーが合うような鍵穴を見つけなければならんわけだ。だけど、俺には未来を知る術もないし、 長門のような宇宙的超絶能力も持ってないし、古泉のように巨大な情報網も持ってないし手からエネルギー弾も出せない。 思ったとおりに行動できるはずも、していいはずもないと思うんだが。 「君自体が”鍵”なんだ。これ以上詳しくは俺からもいえない。だが、君が彼女らを取り戻そうと思う限り、君が求める鍵穴は君の目の前に現れる。大丈夫だ」 そうニカッと笑われても・・・ねぇ? とにかく、やるしかないようだ。 やるって何を? 自分でもわからんさ、残念ながらな。 シュルツ氏は特に連絡先などを告げることなく、頑張れよ若いのと俺の肩をぽんと叩いて、俺より先に客間を後にした。 そういやこの謎会合の場は鶴屋さんの家だったりもしたんだが、鶴屋さんとは会わなかった。法事か何かに行ってるんだろうか。 ともかく、その日はそのまま家路について飯をかっ食らい、風呂に入りながら色々と思案をめぐらし、そのまま布団にもぐりこんで平和裏に寝ちまったわけだが、 翌日のっけからとんでもないモノを目にしちまうってわかってれば・・・少しは心の準備ができたんだが。 翌日。少々どきどきしながら登校し教室に入った俺だったが、俺の後ろのハルヒの席であったところに、何かが居た。 何か。 何かである。 いや、もうなんというか名状し難い。 あの初期ハルヒのオーラを身にまとい、巨乳と無表情な童顔。朝比奈さん・・・でもなく、長門・・・でもなく、ハルヒ・・・に若干近いが違う。 言うなれば「あの三人に似た全く別の人間」である。 不意にこっちをむいたその「何か」は 「おはよう」 ひゃうっ!と思わず口走ってしまうほど唐突に、朝の挨拶を俺に投げかけた。 「どうしたの」 こっちがどうしたんだと問いたい。お前は誰だ。 「涼門みるき」 ・・・なんだって? 「涼門みるき」 す・・・ずかどみるき? 「そう。三回聞き返した。若年性痴呆の可能性がある。良い病院を紹介しようか」 会話に疑問符も感嘆符も一切つけない「何か」ことこの「涼門みるき」なる女であるが、なる ほど、あの三人の名前が適度に交じり合っているので、あの消えた三人を適度にミックスしつつ ハルヒよりに再構築させたような雰囲気と風貌をあわせもっている。 っておい! 「落ち着きなさい。あたしになにか言いたいことがあるようだけど、どうかした」 「あ・・・いや、別に・・・」 「おかしなキョン。まあいいか」 と机の中から取り出した何やら巨大な医学書を開き、みるきは静かに読み始めた。 「面白いか、それ」 「ユニーク」 まるで長門と会話してるようだったが、声質は全然違う。当たりまえっちゃ当たり前 だが、当たり前で済んで欲しくはない俺は、いつも惰眠をむさぼりたい時間帯である 予鈴から1時間目にかけての間、脳みそをフル稼働させて脳内人格会議を行うも、もとより尽くす策 ははじめから持ち合わせていない俺にとっては時間の無駄以外の何者でも無かったよ うで、いつものように惰眠をむさぼるべく数学教師の太陽拳的頭頂部を眺めつつ眠り の沼に沈んだ。 かに思われた。 眠りの沼へ全身が没しようとした瞬間、いきなり後頭部を打撃が見舞い、ついでに勢 いあまって国語の教科書と硬い机にも頭突きを見舞い、俺は悶絶した。 「・・・ってめぇ」 後ろの野郎だ。なんてことをしてくれる、俺のそんなに多くない脳細胞がいち早く死 滅することになるだろうが。 「授業中。寝ないで」 ああ判ってるさ、授業は寝ないで真摯に聞いてこそ価値あるもんだ。だがな、お前 だっていつもそうしてたじゃないか、なあハル・・・。 顔に苦悶の表情を浮かべつつ後ろの席を顧みた俺は、つむぎかけた言葉を飲み込み、溜息する。 ハルヒじゃねえんだっけな・・・ ハルヒよ、どこに行ってしまったんだ。こんなにお前が恋しくなるとはおもわなんだぜ。 『わたしは ここにいる』 脳内に声が響いた。ハルヒの声・・・だな。どうやら二重打撃の所為で俺の脳みそは とうとう異常をきたしてしまったらしい・・・。 『わたしは ここにいる だから助けろって言ってんでしょバカキョン!!』 不意にその声は途切れ、ついでに頭痛も治まった。いつも頭痛のタネだったハルヒの 声で頭痛が治まるとは、なんというショック療法。 いや、そういう問題じゃない。問題はなんでハルヒの声がしたかなんだが・・・ 改めて後ろを振り向くも、後ろには俺が寝ないように見張りつつ高速でペンを動かし て綺麗な明朝体で黒板の文字を速記するみるきの姿があるのみで、ハルヒなんざは居 ない。いや、居るのか?この『みるき』の中に。 もう声はしない。 でも、居る気がする。確実に。 なんでかって? カンさ。だけど、なんだかんだ言ったって、ハルヒの一番近くに居た人間の一人であ る俺が言うんだ。間違いない。 ・・・と思う。 「その考えは間違ってはいません。むしろ正解に近いかと」 とは、1時間目終了とともに教室を飛び出したら、何故か教室の外にいやがった古泉の野郎の弁だ。まったく、この異常事態によくそんな無意味スマイルを纏っていられる。 「涼門みるきなる女性は、涼宮さん、長門さん、朝比奈さんの融合体・・・といったところでしょうか」 んなん見りゃわかるさ。ってか、お前も事情を知ってるんだな? 「ええ、昨日あなたが会ったあの男性ですが、我々の協力者のようなものです。そうですね。少なくとも、今の朝比奈さんより未来から来た朝比奈さんや、 長門さんの親玉よりははるかに信頼の置ける相手かと思われます。あの彼から自由に動いていいと言われるなんて、うらやましい限りです」 まぁ、神様から『成せば成る』と言われるようなものだからな。 「そうそう、この懸案は我々主導で解決させるということに決定しました。彼は伝えることを伝えたので、またスタンドからの観戦に戻るそうで」 あの人がいれば百人力のような気もするんだが。 「彼・・・いや、超高次存在――我々はアカシックレコードのことを暫定的にそう呼んでいます――それから遣わされている彼らは、長門さん以上の制限を課せられているようで、 自由に動けないらしいんですよ」 なら仕方ないか。古泉、少しはお前も手伝えよ。 「わかってます」 シュルツ氏と違い、なんだか好きになれんスマイルで俺を見つめてくる。ああっ、近い、息を吹きかけるな! 「僕に出来ることなら、なんなりとお申し付けを。それより、シュルツ氏からかなり有益な情報を戴きました。 「ほう」 「涼門みるきなる女性ですが、彼女は涼宮さんの願望がキーとなって生まれたようです」 またか。またハルヒの願望の所為か。全く、ちったあまともな願望は無いのか、ハルヒには。 「いや、あくまでキーに過ぎません。この現象は、涼宮さんの願望がキーとなり、朝比奈さんの願望、長門さんの願望が互いに交じり合った結果発生したものとシュルツ氏らは考えているようです」 こったようです」 「どういうことだよ、それは」 「涼宮さんが抱いていた、『可愛さや巨乳』への憧れ、朝比奈さんが抱いていた、『知』への憧れ、長門さんが抱いていた、『自由』への憧れ・・・。三人とも、それら誰かがあこがれるもののうちひとつだけは持っています。 しかしながら、無いものを強く求めた。だから、融合してしまったんです」 「ちょっと無理やり過ぎないか?」 ハルヒは朝比奈さんとまた別な可愛さを持ってると思うぜ。無意味スマイルをさらに増強させた古泉は 「そうなんです。無理やりですよね。でも、無理やりなことでも起こしてしまう、それが涼宮さんなんですよ」 あくまでキーはあなたです。何事もあなた主導で、と言い残し、古泉はさっさと自分のクラスに戻っていった。 役立たずめとも言いたくなったが、俺も尽くす策は何も持ち合わせてない役立たずなんだよなぁ・・・ やれやれだぜ。 次
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1264.html
長門ふたり 第六章 ハルヒ、古泉に恋す。 とある日曜日。僕は長門さんのマンションに呼び出された。何の用事かは 知らされていない。今朝、起きるといきなり長門さんから携帯に電話が入り、 「来て」 とただ一言告げただけで切れた。かけてきたのが長門さんAなのかBなのかは 電話では知りようが無いが、とにかく、呼び出されたからには行くしかないだろう。 マンションの入口で長門さんの部屋のルームナンバーを押し、オートロックの 鍵を解除してもらってからマンションに入る。エレベーターで上り、 部屋のドアをノックして入れてもらう。部屋の唯一の調度であるこたつの右に 長門さんAが左にBが座り、真中に僕が座った。 長門さんAが切り出す。 「あなたの言う通り、わたしたちは彼を共有した」 「助かっています」 「しかし、この状態は問題がある」 「と言いますと?」 「彼の注意のほとんどが涼宮ハルヒに向いている」 はあ、それはそうだろうな。壁でおとなしく本を読んでいる地味目の 美少女と、放っておいたら世界を破壊しかねない派手目の美少女の どっちが気になるか、といえば後者だろうし。 「お気持は解りますが、こればっかりはなんとも」 「わたしたちもそう思っていたが間違いと気づいた」 「どう間違っているのですか?」 「彼の注意を涼宮ハルヒからそらす方法がみつかった」 「それはそれは。彼の脳を改変しますか」 「それはあまり好ましくない」 「では、どうされるのですか?」 「彼の注意が涼宮ハルヒに集中しているのは 涼宮ハルヒが彼に固執していることの裏返し」 確かに。ヒューマノイドインターフェイスも有機生命体の心理について 研究がかなり進んだんだな。 「涼宮ハルヒの注意を他に向ける」 「なるほど、それは考えませんでした。それならば...」 「涼宮ハルヒの注意があなたに向くように脳の改変を行った」 「今、なんと言われましたか?」 「通俗的な言語で言うと『古泉一樹が好きで好きでたまらない』状態に誘導した」 「ちょっと待ってください、そんなことを勝手に...」 僕はつい最近、長門さんがダブル改変した世界での僕と涼宮さんの 関係を思い出した。みんなが見ているところで弁当を食べさせあう仲。 放課後に毎日、あんなことやこんなことを繰り返す仲。 「あなたが心配しているようなことは何も起きない。大丈夫」 「しかし...」 「これは、朝比奈みくる流に言えば『既定事項』。拒否するなら 彼を共有すると言うあなたの提案も拒否する」 僕は彼の二重化を思い出した。それはそれでひどく困る。 「これで話は終わり。帰って」 僕はマンションを追い出されてしまった。 涼宮さんの様な美少女と「深い仲」になるのはほんとうは 満更でもないことなのかも知れないが、こと、相手が涼宮さんとなると ちょっと大変すぎる。毎日、弁当を食べさせあわないといけないのだろうか? みんなが見ている前で。頭がいたい。 次の日、うわべではいつもと同じ作り笑いを浮かべながら、その実、 緊張しながら文芸部室のドアを開けた僕の目に飛び込んで来たのは、 僕の姿が目に入った途端、にやりと笑うと僕の方にとんでやってくる 我等が団長さまの姿だった。 「古泉くん、次のみくるちゃんの衣装、何がいい?」 いまだかつて、僕は意見など求められたことなど一度もない。 いつも何か意見を求められているように見えないでもないかも知れないが、 実際には同意しか期待されてないのだから、あれは違う。 それにしても、顔近付けすぎですよ、涼宮さん。 「考えといて。あと、ホームページのメンテは今日から古泉くんに やってもらうことにしたから。そうそう、忘れるとこだったけど、 副団長は今日からキョンにやってもらうことにしたわ。 悪いけど古泉くんは格下げね」 何か話がおかしい。涼宮さんは『僕が好きで好きでたまらなく』なったんじゃ なかったのか?じゃあ、なぜ、僕に次々とつまらない用事をいいつけるのだろう? 僕に恋しているようには全く見えないが....。 「古泉くん、早速だけど、今日、有希の部屋で鍋パーティをすることに決まったから このリストにある食材を買って有希のマンションに持ってきてくれる? あ、代金は立て替えておいてね」 渡されたリストはA4サイズの紙一枚分あり、その全てを買い揃えて 長門さんのマンションに持っていくのは半端ではない大変な作業だった。 にも関わらず、長門さんのマンションに青息吐息でやっとたどりつた僕に 涼宮さんは一言 「古泉くん、遅い!」 と言い放っただけだった。 次の日から涼宮さんの挙動はすっかり様変りした。まず、朝比奈さんをいじめるのを わざわざ僕がいるときを選んでやるようになった。僕が止めにはいると本当に うれしそうに僕にくってかかった。彼はと言えば 「いいアイディアだと思うぞ、ハルヒ」 とか 「全くそのとおりだな、ハルヒ」 などとお気楽に、先週まで僕が口走っていたセリフそのままに口走っている。 そう言いながらにやりと僕の方をみて笑う彼をみるとむかっ腹がたった。 それでやっと、なぜ彼がしょっちゅう僕の方を見て苦虫を噛みつぶしたような 渋い顔をしていたのか解るようになった。本当、これって頭に来るな。 「古泉くん、あれやって」 「古泉くん、これやって」 と涼宮さんはなんでもかんでも僕に言いつけて僕をこき使うようになった。 僕はとうとうへとへとに疲れ果てて、どう頑張ってもいつもの作り笑いすら できなくなり、彼がよくしていたように文芸部室の机につっぷして 居眠りをするようになった。 おかしい。絶対に変だ。涼宮さんは『僕のことが好きで好きでたまらなくなった』 んじゃないのか?だったら、なんで僕にこんなにつらくあたるんだ。 彼はと言うとすっかり時間を持て余し、長門さんの目論見通り、 彼女の隣に座ったりするようになった。よく解らないが、 無駄話などとも交わすようになったようだ。 涼宮さんの脳の改変は何かが間違って失敗したようだけれど、 彼ともっと交流したいと言う長門さんの希望は見事に 適っていた。 長門さんが涼宮さんの脳を改変してから二度の目の金曜日が来る頃には 僕は歩けない程へとへとに疲れきっていた。 涼宮さんの僕に対する要求は留まるところを知らず、エスカレートする ばかりだった。もう限界だ。その日、涼宮さんが 「古泉くん、ちょっとあれと....」 と言いかけたとき、僕はとうとうこう言わなくてはいけなくなった。 「すみません、涼宮さん。僕はへとへとです。今日は勘弁してくれますか?」 その時の涼宮さんの顔ったらなかった。よもや、僕が断るとは 夢にも思っていなかったようで、 横っ面を思いっきりはたかれたようなポカンとした顔をした。 次の瞬間にはこれ以上の不快は無い、という不機嫌な顔になり 「あ、そう。じゃあ今日は帰っていいわ」 と言った。僕は早々に文芸部室を引き上げた。 今日こそはゆっくり休まねば。死んでしまう。 そのとき、僕の携帯がコールされた。携帯を取り出して読んだ僕の目に 飛び込んで来たのはこんなメイルだった。 「最近、まれにみる巨大な閉鎖空間が発生。急速に増大している。 至急、出動されたし」 .....もう、死にたい。 その日の閉鎖空間はいつになくやっかいで、倒しても倒しても 神人が出現し、僕等は全力で戦わなくてはならなかった。 やっと閉鎖空間が消滅し家に辿り着いたときには夜中の2時を回っていた。 あと一人神人が出現していたら、間違いなく、僕の心臓は悲鳴をあげて 停止していただろう。家にたどりついた僕は着替える元気すらなく そのままベッドに倒れこんだ。あとのことは全く覚えていない。 翌日の土曜日、僕は長門さんのマンションに向かって歩いていた。 僕は涼宮さんが誰かを「好きで好きでたまらなく」なったらその相手に どういう態度をとるか、という点で根本的なあやまちを犯していた。 ダブル改変世界で僕とバカップルを演じてみせた涼宮さんは本来の 彼女ではないのだ。あれは僕をつなぎ止めるために長門さんが つくり出したフィクションだ。 誰かが「好きで好きでたまらなく」なった場合に涼宮さんが することはあんなことじゃない。 考えても見ろ。涼宮さんは、あの5月の日、世界を消滅させかけたあの日に、 たった一人、彼だけを選んで連れていったのだ。 本人が自覚的にどう思おうと、彼女くらいの年格好の女性が 世界でたったひとりだけ男性を選んだら、それが何を意味するかは 聞くだけ野暮だろう。でも、涼宮さんは彼にどんな仕打を していただろうか?まさに、今、僕が涼宮さんにされているのと同じことをそっくり そのまま彼にしていたではないか。長門さんは目論見通りに涼宮さんの脳を 改変したのだ。僕がとんでない勘違いをしていただけのことだ。 長門さんのマンションに着くと僕は彼女達にお願いした。 「すみません、元に戻してください。もう体が持ちません」 長門さん達はお互いに顔を見合わせると言った。 「それは残念。涼宮ハルヒから開放された彼は、私達と 頻繁にコミュニケーションをするようになった。彼も 幸せ、私達も幸せ、涼宮ハルヒも幸せ。完全な解決策と 思っていた」 「あなたは、涼宮ハルヒの脳を改変すると告げたとき、 強く反対しなかった」 「いや、それは長門さん達が問題ないと言われたので...」 「私達は、『あなたが心配しているようなことは何も起きない』と言っただけ」 確かに。僕が心配したようなことは起きなかった。心配しなかったことが 起きてしまったわけだが。 「そのとおりです。ですが、予想外の事が起きて、対応に苦慮しています。 長門さん達はこうなると知っておられたのですが」 「知っていた」 「しかし、彼は問題なく耐えていたので、有機生命体の男性は常に 女性の理不尽な要求に耐える能力を備えていると判断した。 間違っていたのか?」 いや、間違ってませんよ。ただそれには重要な条件があります。 きっとあなたたちには理解できないような、ね。 「とにかく、限界です。あと一週間この状態が続いた場合、 僕は自分の精神を正常に維持する自信がありません。 お願いですからもとに戻してください」 「とても残念な結論」 「彼も涼宮ハルヒもそう思っていると思う」 「お願いします」 僕はそう頭を下げてマンションを後にした。 長門さん達は僕の願いを聞き入れてくれるだろうか? もし、聞き入れてくれなかった場合には..。自分でも自分が 何するかちょっと自信が持てない...。 週明けの月曜日、涼宮さんはまるで手の平を返したように、こう宣言した。 「やっぱり、副団長はキョンじゃ役不足よね。古泉くんに副団長を やってもらうことにするわ。キョンは格下げね。じゃあ、さっそくだけどキョン...」 こうして彼の平穏な日々は2週間足らずで終息し、彼はまた 希代の変人涼宮ハルヒによる無限地獄に叩き落とされ、僕はと言えば 傍観者の立場に戻った。この境遇に何ヶ月も耐えていたとは驚嘆に値する。 早晩、長門さんのストレスが限界に達して、またなんらかの行動を起こすのは 間違いないだろうけれど、とりあえず、しばらくは大丈夫だろう。 長門さん、有機生命体の男性が女性の理不尽な要求に耐える能力を 備えているための条件を教えてあげましょうか? それはね、男性が女性にこれ以上無いくらい惚れ込んでいる場合なのですよ。 勿論、彼は自分がこの条件を見たしていることを強く否定するでしょうけどね ....。 第七章
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3389.html
事態は深刻。北高創生以来一番の大事件が起こっている。 事の発端は30分程前に遡る。我等SOS団がいつもの活動――まぁオセロやパソコンくらいだが――を部室でしていた時の事だ。 突然放送が鳴り、俺らは仰天する。 「ここの学校の放送室は乗っ取ったぁぁ!放送委員4人が人質だぜ!!」 明らかに高校生らしくない、中年男性の声がする。乗っ取った?…放送室を? 「これは強盗からあたしたちへの挑戦ね!!受けて立とうじゃない!!」 勝手に解釈するな!…言うと思ったけど。 「しかし涼宮さん。これはさすがに少々危険では…」 「古泉くん!この学校を救えるのはあたしたちしかいないの!あたしたちがやらなきゃ誰がやるの!?」 「そうですね。分かりました、やりましょう。」 そして勝手に納得するな古泉!ハルヒの奴が調子に乗るぞ。 俺らが放送室に向かおうという時に放送が鳴る。 「とりあえず金と酒を用意しろぉー!さもなくばこいつらの命はねぇぞ!!」 …この強盗、馬鹿か?何故金と酒目的で学校なんだ?しかも放送室って… そうこうしつつも放送室前に到着。そこには既に大勢の先生方が集まっていた。 岡部が放送室の中へ聞こえるように叫ぶ。 「金と酒は用意した!!どうやって引き渡すんだ!!」 用意周到なこった。っておいおい、酒があるのは問題なんじゃないか? 「生徒一人が入ってきて渡しに来い!!」 と、犯人の声。さっきの放送の声とは違うところから考えると、強盗は2人組らしい。 「あたしが行くわ!!」 さすがにハルヒの危険を感じた俺はハルヒを制止する。 待てハルヒ!ここは俺が行く。 「あんたはここで待ってなさい!言ったでしょ!この学校を救えるのはあたししかいないのよ!」 さっきは『あたしたち』だったような気がするが、まぁそこはスルー。 用意された金と酒(酒はビール瓶2本のようだ)をハルヒが受け取り、放送室の戸の前に立つ。 「さぁ、開けなさい!!」 ガチャという鍵の開く音。ハルヒは中へ入っていき、戸は閉まった。 緊張する一同。まるでドラマのワンシーンのようだな。 突如、中から騒音と奇声が聞こえてきた。 『バリーン!!』 「うわああぁぁ!!」 「くたばりなさい!」 『バリーン!!』 「ぐおっ」 「さぁ、あなたたち逃げて!」 「待てぇっ!」 「あんたはそこで倒れてなさい!!」 「ぎゃああぁっ!!」 しばらくすると戸が開いた。すぐに人質の放送委員4人が出てきて、その後に泡を吹いてる強盗2人をハルヒが鷲掴みにして出てきた。 「フンッ!ざっとこんなもんよ!」 いやあ、素直に感心したね。本当にたった一人でこの学校を救ってしまうとは。 その後警察が駆けつけて強盗2人を逮捕。ハルヒは警察から感謝状をもらっていた。 そうしてまたSOS団の歴史に新たな1ページが刻まれた。この活躍の象徴となる感謝状は、団長様の机の中に大切に保管されている。 end
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/559.html
「ねぇ、キョン!アレ買ってよ!」 俺の隣に歩いてるハルヒは何かを見つけ、俺に見せた。 「はいはい…って、金、高っ!?」 ハルヒが見つけた物は、俺の金が無くなるぐらい高額であった。 「別に、値段はいいじゃないの…」 「そんな金はありません!返して来なさい!」 「ケチ!」 さて、皆さん、突然、唐突過ぎて分からない人いるだろうか。 今、俺はハルヒとデートしてるのである。不思議探しでもない、SOS団活動でもない… 正直証明のデートである。 「やれやれ…」 どうしてこうなったかと言うと、今から2日前に遡る。 某月某日の夏の放課後。 「キョン!話あるから残ってて!」 俺は帰ろうと思ってた時に、ハルヒから止められた。 何で俺が残るのだ、俺はお前に何をしたんだ。 「別に、あんたは何もやってないわ」 ハルヒは、椅子座りながら言った。 まだハルヒは何かを企んでるな。どうぜ、俺にコスプレを着させて宣伝するつもりだろう。 いやいや、それは無いな…コスプレするなら朝比奈さんしかいない。 だとすれば、俺に危険な事をやらかすんじゃないのかね? 「用が無ければ、帰るぞ?」 「待って、今から言うわ」 やはり、ロクな事言うに違いない…。 帰りたい、早く帰りたい。だけど、このまま帰るとハルヒに死刑されるわ、 ハルヒがまだ「メランコリー」になったら、古泉に叱られるに決まってる。 逃げる道は無いのか…と俺は、少し溜息した。 「どしたの、キョン?まぁ、いいわ…明後日、暇?」 明後日?明後日だと…うん、休日だな。別に予定が無い訳で、暇になるな。 しかし、何故…明後日なのだ?不思議探検をするのだろうか。 取りあえず、聞いてみた。 「あぁ、暇だが…明後日は、何があるんだ?」 と問うと、ハルヒは何やら、そわそわしてる様子だった。 何だ、ハルヒの様子がおかしいぞ…。 「あ、あのさ…えーと、その…デ、デ…」 …デ? やっぱり、おかしいぞ…今のハルヒは、いつものハルヒではなく…。 顔を真っ赤にして俯いてるハルヒである。 「デがどうした?ハッキリ言わないと分からんぞ」 「そ、そんなの分かってるわよ!だから…デ、デートよ!」 はい?今、何で言いましたか?ハルヒさん。 「だーかーらー、デートしよ!と言ってるんだってば!」 デ、デートだって!? デートとは、 1 日付。 2 男女が日時を定めて会うこと。「恋人と―する」 なるほど、これがデートって訳か…って、何で辞書を出すんだよ。 落ち着け、俺!これは、ハルヒの罠だ!そうさ、ハルヒの罠に決まってる。 「冗談だろ?」 と俺が言うと、ハルヒはこう言った。 「ホントよ!冗談だったら、そこまでは言わないわ!」 マジですか…。嘘だと言ってよ、ハルヒ! 「…と言う事で、明後日9時に公園で集合ね!遅れたら、奢りよ!いいわね!」 …と言う訳で、今に至る訳だ。 勿論、遅刻してしまい。奢る破目になった…。 「仕方ないでしょ!遅刻したあんたが悪い!」 おぃおぃ、「9時に集合」って言ったのは、どこのどいつだ。 頼むから、集合時間を正午してくれよ…。 今、ハルヒと一緒に色々と歩き回り楽しんでる所である。 ―ぐうぅ~… いかん、腹減った。 時計を見ると、もう正午に回っていた。 「キョン、腹空いたの?」 「あぁ、腹減った」 実は、朝食抜きで出かけたからだ。このままだとぶっ倒れそうだな。 「仕方ないわね、あ、あそこ食べようよ」 と、ハルヒは指差した。 俺はハルヒが指差した方へ見ると、シンプルな風景であるカフェだった。 「あ、ここ知ってる」 「ん?何か知ってるって?」 「今、女性の間で凄く人気あるカフェなの!」 「ほぅ…」 男としての俺は、そんなに人気なのか全く分からなかった。 取りあえず、食べ物とコーヒー頼んだ。 「そういえば、有希はどうしてるのかな?」 長門の事か…あいつなら、無感情で本を読んで過ごしてると思うぞ。 「そうなの?だったらいいけどさー」 そんな会話してる内に、頼まれた物がやって来た。 朝食食ってない俺にとっては、助かる。 「う~ん、うまいね!ここ」 「あぁ、ホントに上手いな」 なるほど、ベジタブル料理だから女性には人気なんだな。 ハルヒもそうだろうか。 ハルヒと楽しく食事を取ってた時に、誰かがやって来た。 「あれ?ハルにゃんとキョン君じゃないかぁ!」 「つ、鶴屋さん!」 おや、鶴屋さんじゃないですか、どうしたんです。 「いやぁ、今、友達と遊んでるにょろ!」 よく見ると、奥のテーブルに鶴屋さんの友達がいた。 「所で、ハルにゃんとキョン君はどうしてここにいるのかな!」 「そ、それは…その…そぅ!不思議探しよ!不思議探し!ね、キョン」 ん、何で俺に言うんだよ。 「そうなのかぃ?」 「えぇ、そうですよ」 「そうそう、あは、あははははは…」 と、笑い誤魔化すハルヒ。 そんな事したら、疑われてしまうだろうか、ハルヒよ。 「ふーん、そうしとくよっ!さ、デート頑張れよっ!」 鶴屋さんは元気良く、その場から去った。 「…あ、あれ?な、何で、デートって分かったのかな?」 …ハルヒ、自分で言った事をもう一度思い出してやろうか。 この後、俺の奢りで支払いをしたのである。 「そういや、この後、どこへ行くんだ?」 「ん、デパートへ行こ!あたし、ちょっと欲しい物あるから」 と言って、店から出て、デパートへ向かったのである。 デパートか…俺の金、まだあるんだろうな。 俺の愛しいサイフを覗いて見たか、あるか無いか微妙だった。 そんな事をしてる内に、目的のデパートに到着した。 ハルヒは欲しい物ってあったのだろうか。 まさか、UFOを呼び出す道具とかそんなんじゃないだろうな。 だが、俺の予想は外れた。 「キョン、見て!見て!」 ハルヒが俺に見せたのは…。 「服?」 よく見れば、ピンク色のワンピースである。 「これ、欲しかったんだよね!似合う?」 ハルヒよ、それ反則…マジ似合うよ。 「あぁ、物凄く似合うぜ」 「ありがと!値段は…」 俺も値段を見た。 うむ、安いな。 「じゃ、あたし買って来るね」 「待て、ハルヒ」 俺はハルヒを呼び止めた。 「え、何?」 ハルヒは驚いてた。 何故なら、ハルヒが持ってる服を奪って、レジの所へ行ったからである。 「ちょっと、キョン!あたしが買うからいいよ!」 「いいじゃないか、たまには俺からのプレゼントだと思ってくれよ」 俺は買った服を受け取り、ハルヒに渡した。 「え…でも、あんたの金は…」 そこまで心配するなよ、俺の奢りなんだからな。 「気にするな、さっき言ったとおりだが…俺からのプレゼントだと思って受け取ればいい」 「…うん」 うむ、照れてるハルヒは可愛いな。 それにしても、ハルヒが欲しかったのは、服だったのか…。 …早くワンピース姿見たいね。 そして、色々、楽しい事をした。 俺は、ハルヒと一緒に居るとなかなかいいかもなと思った。 いよいよ、デートの時間が終わりに近づいた。 「あー、楽しかったね!」 「そうだな」 俺達は、今、公園で休憩してる。 夕日が暮れ、公園の電灯が点いた。 俺はふと、ハルヒの横顔を見た。とても可愛くて美しい女に見えた。 「ん、何?」 ハルヒは、俺がハルヒを見てる事に気付いてた。 「あ、いや…」 ハルヒが可愛すぎて、こっちが恥ずかしくなった。 ヤベェ…理性が爆発しそうだ。 「怪しいわね、下心あるんじゃないの?」 ハルヒは、笑ってた。 俺は、必死に笑い誤魔化そうとした。 「ねぇ、キョン」 「何だ?」 「そろそろ、素直になったら?」 「え?」 一瞬、時が止まったように感じた。 「あたしも素直になるから…本当の事を言ってくれる?…あたしの事好き?」 「ハルヒ…」 よく見れば、ハルヒの肩が少し震えてる。 俺は、ハルヒを優しく抱き締めた。 今、思った。素直になろうとな。 「ハルヒ、俺は初めてお前にあった時は、綺麗だったし、軽く惚れたよ… SOS団、設立して本当に良かったと思ってる。お前がいると、俺は幸せなんだよ。 幸せだからこそ、俺は今ここにいるじゃないか!ハルヒ、お前の事が好きだよ。 例え、どんな事あろうと守るよ。」 言えた。俺の告白…ちゃんと言えた…。 俺は、ハルヒを見ると驚いた。 ハルヒは、 泣いてた。 「ハ、ハルヒ!」 「ゴメン、違うの!あたし、嬉しいよ…こんな事思ってるなんで、あたしも幸せだよ!」 ハルヒは、俺を強く抱き締めた。 「あたしも、あんたの事が好きよ!」 俺は、感動してしまい、少し泣いた。 ハルヒも物凄く泣いた。 俺は、このままでいい…このまましばらく抱き締めたいと思った。 「ねぇ、キョン…キスしてくれる?」 「あぁ…するよ」 俺の唇とハルヒの唇を重なり、キスした。 長いキスだった。 「お疲れ様、キョン!そして、これからも一緒に行こうね」 「あぁ、そうだな」 帰りは、手を繋いで歩いた。 ハルヒとしゃべりながら帰ると楽しいものだな。 完 おまけ 「ねぇねぇ、キョン!これ、どう?」 ハルヒは、ポニーテルにワンピース服の姿で現れた。 「似合うじゃないか、ちょっとカメラ撮っていいかな?」 と、言うと 「ダメv」 ハルヒは、朝比奈さんのお得意技でもある、一本の指を唇に当てて、ウィングした。 グラッと来たね。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5135.html
<涼宮ハルヒの旧友Ⅰ> 俺達が2年に進級してから、もう2ヶ月経った。 そんなある日、急に転校生が来た。いきなりだな、転校生が来るなんて、担任岡部からも口にされていない。 転校生を見るなり、クラスの女子達が騒ぎ出した。 顔をよく見てみると、ものすごいイケメンだった。古泉に匹敵するんじゃないかと言えるくらいイケメンだから、そりゃあ騒ぐだろ。 まあそんなことは別にどうでも良い、問題はハルヒがどう動くかどうかなのだが、あいつのことだ、すぐ転校生がどうとか騒ぎ出すだろう。 そんなことを思いながら、後ろのハルヒの反応を見てみると・・・・・・口をポカンと開けて驚いていた。何回目かな、こんな驚いたハルヒを見るのは。 ハルヒ「キョン、何であいつが・・・ここにいるのよ!!」 何故俺に聞く?少なくとも初対面の俺に聞くぐらいなら神様にでも聞け。 ハルヒ「だって、あいつもう会えないって言ったのに・・・」 待て、何なんだハルヒのこの驚き様は、俺はあの転校生とハルヒがどういう関係かは知らんが。 そんな考えをし終えると、あいつの自己紹介が始まった。 祐樹「俺の名前は保泉祐樹、○○高から来たんだ、ここが今の俺の新天地だ!っていう実感はまだあまり無えけど、まあ楽しくやってくつもりだから、ヨロシクなっ!!」 なんて眩しいスマイルなんだ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3319.html
「ちょっと……どういうことよ、記憶を消去するって!」 「言葉の通り。あなたの能力は自覚するにはあなたの精神への負担が大きすぎる。 故に、このことを忘れ自覚してない状態に戻すのが適切と判断した。」 「でも……でもそれじゃあ、今までと変わらないじゃないの!」 確かにな。ハルヒの能力が消えるわけじゃない。 ハルヒ自身が忘れるだけで、神懸り的な能力も閉鎖空間もそのままだ。 だが…… 「いいんじゃないのか?それで。」 自然に口から出た言葉。これは俺の本心だ。 「これは俺自身の勝手な考えだがな、ハルヒ。俺はお前に振り回される日々、嫌いじゃないんだぜ? 能力的な面でも、そうでない部分でもだ。 お前、自分の役職言ってみろよ。」 「……SOS団の、団長……」 「だろ?お前普段から言ってるじゃないか。団長について来い、ってさ。 お前は自分の周りのヤツらを振り回すぐらいで丁度いいのさ。」 「でも、迷惑だとは思わないの!?」 「正直、時々は思うさ。でもな、今のお前みたいな姿を見るよりは、迷惑かけられる方が100倍いい。 お前には、いつでも笑っててほしい。さっきみたいな笑みじゃないぞ、心から笑ってるいつもの笑顔だ。 これが俺の気持ちだ。……みんなは、どう思う?」 俺は朝比奈さん、長門、古泉に問い掛けた。 さっきのは完全に俺の本心であるから、他の三人がどうかはわからない。 もしかしたらこのまま自覚したままの方が都合がいいかもしれない。 だが…… 「わたしも、キョン君と同じ気持ちです。」 「……わたしも。」 「僕もです。涼宮さん、あなたが笑っていてくれることが、僕らにとっては1番重要なことなのですよ。」 ほらな。みんな同じなんだ。 そりゃ最初はいろんな組織の思惑があってSOS団に居たのかもしれないさ。 だが今は違う。ハルヒの笑ってる顔が好きだから、俺達はここにいるのさ。 「じゃあ長門、やってくれ。」 「わかった。」 長門がまた例の高速呪文を唱えた。するとハルヒは瞳を閉じて、その場に倒れこんだ。 「ハルヒ!」 「心配ない。今は寝ているだけ。起きた時は能力に関する記憶は全て消えている。 涼宮ハルヒが能力を自覚した上で願ったことも全て無かったことになる。 だから朝比奈みくるの未来も、大丈夫。」 「そ、そうですか、良かったぁ……」 朝比奈さんはへたへたと座りこんで安堵の笑顔を見せた。あなたもその笑顔が1番似合っていますよ。 しかし…… 「俺は時々、コイツの能力をうらやましいと思ったことがあったが…… 考えてみりゃ、残酷な能力だよな。」 もし俺がハルヒと同じ能力を無自覚で持っていて、ある日突然自覚せざるを得なくなったら…… 俺だって正気を保てる自信が無い。 「その通りです。考えてみてください。夏休みがいつまでも続いてほしい…… こんなこと、誰だって考えることです。悪いことではありません。 ですが、それを叶える能力を持ってしまったが故に、時間のループという現象を生み出してしまうのです。 しかも本人は無自覚のままで。こんなに残酷な能力はありませんよ。」 古泉が俺の意見に同調した。 実際、ハルヒの能力に1番振りまわされているのは古泉と言える。 ハルヒのご機嫌を取ったり、閉鎖空間に駆り出されたりな。 「なあ古泉、ハルヒを恨んだことはあるか。」 「……無い、と言ったらウソになりますね。 能力に目覚めたての時は、憎かったですよ。なんで僕が、ってね。 ですが今は違いますよ。彼女もまた、能力の被害者の一人だと認識していますし…… なにより、彼女に振りまわされる日々も気に入っていますから。あなたと同じように、ね。」 古泉が俺に対してウィンクをした。だからやめろって、気持ち悪い。 「涼宮ハルヒは能力という爆弾を抱えている、非常に脆い存在。」 長門が口を開いた。脆い、か……そうかもな。また今回みたいなことが起きないとは言いきれない。 「だから、彼女を支える。それが、私達の役目。」 ……そうだな。長門の言う通りだ。 爆弾を持っているんなら、俺達が爆発しないように見守っていてやればいいのさ。 とりあえず、俺はハルヒが目を覚ましたらこう言ってやろうと思ってる。 「お前は、笑顔が1番似合ってるぞ。」ってな。 終わり